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2019年夏 06 オシドリ ~いつも寄り添う「夫婦」を実感

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 長野市鬼無里の裾花川源流域。観光センター上部の元池に6月初旬、オシドリのつがいがいた。池は渓谷から流れ出た土砂がえん堤でたまり浅い。池底の水草や藻などを採餌しながら水面を移動していく。雄はまだ繁殖期の羽で、特徴の「銀杏羽」などカラフルだ。地味な色の雌の後を追うように寄り添い草むらに消えた姿に、「おしどり夫婦」を実感できた。

 カモ科で全長40~45センチ。アジア東部、日本に分布。中部以北から北海道で繁殖し、冬季は南下し越冬する漂鳥。日本野鳥の会長野支部の藤田伸二支部長(62)によると、北信では飯綱高原の大池周辺や信州新町の小花見、大花見の両池、須坂市の臥竜公園竜ケ池など森林に近い池などに生息。このつがいは繁殖期の終盤という。

 冬は周りが囲まれた池や湖、河川などで群れになって過ごす。この時季に、相手を探し、つがいを形成、4月ごろから繁殖期に入る。巣は渓谷や湖沼近くの高さのある樹洞に作り、7~十数個を産卵。巣作りから抱卵、子育ては雌のみで行う。見張り役の雄は、抱卵期にはいなくなる。夏になるとカラフルな羽も替わり、雌と見分けがつきにくくなるという。

 万葉、奈良の時代から、いつも寄り添う仲睦まじい姿の代名詞のように「おしどり夫婦」は使われてきた。しかし、オシドリは一生連れ添うわけでなく、秋から再びきれいな羽に替えた雄は、別の雌を探し、つがいを形成するという。

 オシドリのイメージとは逆ではと感じるが、「『おしどり夫婦』ではない鳥たち」(濱尾章二著、岩波科学ライブラリー)によると、鳥の雄と雌が仲睦まじく協力し合って子育てするイメージは人の目を通した見方。いわば虚像で、現実は、厳しい自然の中で進化した利己的な雌雄の姿がそこにあるとしている。
(2019年7月6日掲載)

写真=道路に人の気配を感じ遠のくオシドリの夫婦(上が雄)。撮影中、常に寄り添っていた=長野市鬼無里の奥裾花流域「元池」で6月4日撮影
 
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