
多かった残雪がようやく消えた6月18日、10年ぶりにナベクラザゼンソウに会いに飯山市の鍋倉山中に入った。雪の重みで斜めに傾いた低木が芽吹き始めた湿原で、一斉に伸び始めた緑色の葉が遅い春を演出していた。
サトイモ科の多年草で高さ30~70センチほどに楕円形の葉を数枚広げ、根元に3~5センチと小さな赤紫色の仏炎苞(ぶつえんほう)を付ける。日本海側の多雪地帯に分布するが、鍋倉山で最初に発見されたのは1987年。ヒメザゼンソウに似ているとされたが、2002年に新種と分かり、ナベクラザゼンソウと命名された。
新種の調査、認定に関わったのは、当時県環境保全研究所自然環境部長の大塚孝一さんら。さらに10年、仲間のザゼンソウの花が寒冷な環境下で発熱することに着目、花期に赤外線熱画像装置を使い、国内に産するザゼンソウ属3種の発熱状況を調べた。結果、ナベクラザゼンソウも発熱し、ヒメザゼンソウはしないことを初めて突き止めた。
熱は花が呼吸することで発し、開花時に寒さから身を守り、受粉のために昆虫を誘引するためではないかと考えられた。しかし、発熱のメカニズムや進化、生態との関わり、株の生育過程、繁殖などの生活史など、詳しいことは不明のまま残った。

この謎の解明に向けて、昨年から同研究所の生物多様性班植物担当の高野宏平さん(42)を軸に、同研究所スタッフや京都大学生態学研究センター、大塚さんらとの共同研究、調査がスタートした。
生育地に入ると、多くの葉が食べられ、花を付けた株もかつてより減っているように思えた。高野さんは「その原因や送粉昆虫の特定、DNA解析などで実態を明らかにし希少種の保全に役立てたい」と話している。
(2019年7月13日掲載)
写真左=雪解けとともに伸び始めたナベクラザゼンソウ
写真右=同時に根元から小さな花を抱いた仏炎苞が出るのが特徴
ともに飯山市鍋倉山で6月18日撮影