
国内でも有数の規模を誇るミズバショウ群落で知られる長野市鬼無里の奥裾花自然園。樹齢300年を超すブナ林をはじめとする森の中、吉池やひょうたん池では今年も梅雨入りを待つように、産卵時にみられるモリアオガエルの卵塊が数十個以上できた。
アオガエル科で雄は体長4~7センチ、雌は6~8センチ。日本固有種で、本州と佐渡島、県内一円に分布、北信では戸隠、飯綱高原、飯山から栄村にかけての信越トレイル沿いなど標高の高い山地の池や湖沼一帯に生息する。
指先には大きな吸盤があり、樹上で昆虫などを捕食し生活する。梅雨時の夜、雌は湖沼や池の水面に張り出した木の枝や笹などで産卵。雌の周りには「わが子孫を」と複数の雄が集まり受精。300~800個といわれる受精卵は、粘液とともに次第に大きくなり10~20センチほどの白い塊に。卵塊は1週間ほどで雨とともに崩れ、中から出たオタマジャクシは水中に落下する。
県版レッドリストで準絶滅危惧種にランクされる希少種で、奥裾花自然園の繁殖地は飯田市の野底山とともに県の天然記念物に指定されている。
「昔からいたものと思う」と鬼無里で生まれ育った県自然保護レンジャー宮沢秀光さん(82)。同自然園のミズバショウの大群落が発見された1964年の3、4年後、宮沢さんは仲間4人と、吉池でモリアオガエルの産卵の動画撮影に挑んだ。カメラは8ミリフィルム、照明用自家発電機や音声収録のマイクなどを準備、産卵の始まる夕刻までに現地入りした。
「卵塊が池の周りにいくつもあり、長い時間をかけて産卵を撮影した」と宮沢さん。午後10時ごろには帰路についた。モノクロかカラーか覚えていないが、記録したフィルムは同地区公民館に保管してあるという。
(2019年7月20日掲載)
写真=梅雨時の夜間に産卵、できたモリアオガエルの卵塊。早朝に訪れるとまだ雌と雄がいた=奥裾花自然園で6月14日6時40分撮影