
貴重な梅雨の晴れ間となった6月下旬の平日、山仲間3人で飯山市の鍋倉山(1289メートル)にある「巨木の谷」を訪れた。この山に登るのは9年ぶり。ブナの大木で知られる「森姫」「森太郎」との対面は2度目だ。
全山がブナ林で覆われる鍋倉山は、よく整備された関田峠から黒倉山(1247メートル)を経て登る関田峠コースが一般的。巨木の谷から山頂直下の久々野(くぐの)峠へ向かう直登路は、かなりの困難を伴う。
長野市内を7時に出発。飯山市の戸狩温泉スキー場から県道を新潟県境の関田峠へ。沿道はタニウツギのピンクの花が美しい。
途中、道の両側に大きな駐車スペースがある。ここに車を置き、少し下ったところの狭い入り口からやぶの中に入る。間もなく巨木の谷への案内板が。自然保護の観点から不特定多数の入山を避けるため、登山口は分かりにくくしてあるようだ。
雑木が頭上を覆う。ジャングルの中のような細い道を登っていくと、「県道へ400メートル」の道標。ここから山腹を大きく左へ巻く道を進む。豪雪地帯とあって山側の木は根元から湾曲し、登山道まで倒れこんでいる。
ここから上は、木の下をくぐったり、またいで乗り越えたりの連続だ。足元ばかり見ていると、いきなり幹に頭をぶつける。実にやっかいな道だ。

尾根筋に出ると、直登路と森姫、森太郎への道の分岐に。まず森姫を見に行く。谷側へわずかに下ると、枯れ木となった無残な姿が見えてきた。来訪者の増加で根元が踏み固められ、数年前に枯死してしまったという。
分岐に戻り、次は森太郎へ。こちらはまだ大きな枝葉を広げ、幹にはコブが隆起し、元気な様子だ。近くに「森の巨人たち100選」の看板が。そこには「推定樹齢300年以上、樹高25メートル、幹周5・34メートル」とある。
樹勢保護のためロープを張って近づけないようにし、上方から眺めるだけ。周辺に茂る木々に隠され、全体が見えないのは残念だ。
森太郎を見た後は右へ迂回(うかい)しながら進む。谷にはまだ残雪が。靴幅しかないような崖っぷちの細い道を、滑落しないように注意深く歩く。
直登路と合流した後も、倒れこんだ木との格闘が続く。急な斜面を登り詰め、稜線(りょうせん)部の久々野峠に着くとほっとした。

ここから山頂へはわずかだ。途中の雪解け水がたまった池には、サンショウウオの白い卵塊が浮かび、木の枝にはモリアオガエルの泡状の卵が産み付けられていた。
見晴らしの利かない山頂で昼食にし、帰路は黒倉山から関田峠へ。ここでは快適なブナ林歩きを楽しんだ。
(横前公行)
(2019年7月13日掲載)
写真上=ブナの大木が生い茂る巨木の谷
写真下左=枯死してしまった森姫
写真下右=まだ元気な森太郎