
北信濃のとある峠に向かう登山道。雪の重みで斜傾した低木の林縁にササユリが点在していた。単独株から大小10株近くの小群落の計20株ほどを確認。7月中旬で、花期の最盛期は過ぎていたが散る直前の花が数輪、林内にほのかな甘い香りを漂わせていた。
ユリ科ユリ属の多年草で、高原でおなじみのオレンジ色のクルマユリやコオニユリ、ヤマユリなどが仲間だ。高さは70~80センチほどと高く、和名の由来は葉がササの葉に似ることから。先端に横向きに白や薄いピンク色の花を1~3輪付ける。
本州中部以西、九州に分布する日本固有種で、県内では東信を除く里山の草原や林縁の日当たりの良い場所に自生。下伊那郡売木村や木曽郡上松町、合併前の旧奈川村、三岳村などが町村花に選定、古くから親しまれてきた花だ。
しかし、1960年代半ばごろから、生活様式の変化に伴い、里山の採草や炭焼きなどのために人は山に入らなくなり、森林化も拍車をかけ、ササユリの生育環境は悪化していった。園芸目的の採取も後を絶たずササユリは減少の一途へ。
県は2002年の県版レッドリストで準絶滅危惧にランク、04年には県指定野生動植物に指定、採取に規制をかけた。さらに、10年にはササユリを「里山生態系の象徴」と位置づけ、増殖や保護とともに生育地一帯の生態系の保全・回復を図る「保護回復事業計画」がスタートした。
特に、南信の約1ヘクタールに千株近くの自生地がある飯田市や下伊那地区は保護活動が盛んだ。保護回復事業計画が決まる前後には、飯田市で「ササユリ等保護対策連絡会議」が発足、チラシ配布や研修会など積極的な活動を展開。
地元の住民を中心に、除草や日照確保の枝払い、違法採取の監視、野生動物からの被害防止など保護回復に向け地道な活動を続けている。
(2019年8月3日掲載)
写真=茎頭頂部に長さ十数センチほどの薄いピンク色の花を咲かせたササユリ=北信濃の山中で7月11日撮影