
長野市の飯綱高原に点在する池や沼。満々と水をたたえた池の岸辺近くに葉を浮かべ、白っぽい花を付けたエゾノミズタデの群落が目についた。
タデ科の多年草。柄のある葉は長さ7~10センチ、幅3センチほどと細長い楕円形で、直立した数センチの花穂の先に薄い紅色を帯びた小さな白い花を蜜に付ける。水中直下には赤色の茎が長く伸びる。
北海道、本州の中部地方以北から東北に分布、長野県北部が南限とされる。池や沼などに生育するが分布域は狭く、県版レッドリストでは絶滅危惧ⅠA類にランクされる希少種だ。
この池で最初に出合ったのは2008年7月。花期が早めで花は少なめだったが、水面を一面に覆いつくす大量の細長い浮葉とそれをつなぐ水中の赤色の茎が印象に残っている。
その後の動向が気になり、今企画がスタートしてから幾度も足を運んだ。しかし、池は水がなく丸見えの底には背の低い植物が繁茂、エゾノミズタデの姿はなかった。
池は田畑を潤すため池で、1972年から77年の間、改修工事が行われたが、取水施設や洪水吐(こうずいばき)などが老朽、劣化し、用水の安定供給や下流域の安全確保が危惧された。
県は農村地域防災減災事業(ため池整備事業)として、2015年度から5年計画で改修工事を実施。湛水(たんすい)をやめた池は同年10月から工事が完成した18年5月までほとんど水がない状態が続いていた。
しかし、その中でエゾノミズタデは命を紡いでいた。水辺環境がなくなっても、茎を直立し細長い葉を互生、容姿を一変して生き残る水陸両生の植物。再び水生となって姿を見せたこの植物の不思議さ、したたかさを実感した。
(夏シリーズ終わり)
(2019年8月31日号掲載)
写真=水面に長楕円形の葉を浮かべ、直立した花穂の先端に白い花をたくさん付けたエゾノミズタデ=長野市飯綱高原で8月1日撮影