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096 荒倉山 ~鬼女紅葉伝説の幽玄さも

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 8月下旬の平日に山仲間と2人で、長野市鬼無里と戸隠境に連なる荒倉山に登った。鬼女紅葉伝説で知られる荒倉山は一帯の総称で、実際には霧見岳(きりみだけ)(1400メートル)と主峰の砂鉢山(1432メートル)を往復した。

 7時に車で出発。信大教育学部前から国道406号を鬼無里方面に向かう。途中から戸隠の荒倉キャンプ場へ入る道を見逃してしまった。やむなく鬼無里の中心部から大望(だいぼう)峠を経てキャンプ場へ。荒倉山の裾を大きく一巡するはめに。

 キャンプ場から林道を上り、竜虎トンネル手前の駐車場に車を置く。ほかに車は無く、この日登るのはわれわれだけだ。登山口には、あまり見かけないフシグロセンノウの朱色の花が咲いていた。

 熊よけの鈴を付け、近くの「紅葉の岩屋」を見に行く。岩壁に大きな岩穴が二つある。左側が、都落ちした紅葉が根城にしたと言われ、奥が深い。右側は浅いが広く、謡曲「紅葉狩」にちなんだ木柱が何本も立っている。

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 岩屋から分岐に戻り、少し登ると「安堵が峰」という峠のような場所に。都から派遣された平維茂(たいらのこれもち)の軍勢が紅葉の残党を滅ぼし、安堵して休んだという。

 ここから、いきなり急登が始まる。小ピークを幾つか越え、やせ尾根を進むと、高さ二十メートルほどの急斜面が現れた。長い鎖をつかんで慎重に登りきる。

 ほどなく霧見岳に。苔(こけ)むした石仏と木製の標柱があり、頂上と思って大休止。だが、実際の山頂は、この先のピークだった。稜線(りょうせん)から戸隠連峰を間近に望む。展望が利くのは、この辺だけだ。

 霧見岳を過ぎると、足元がさらに厳しくなる。戸隠山の蟻(あり)の塔渡(とわたり)のミニ版のような岩稜や、網の目状になった木の根を踏み越えたり。アップダウンも多く難儀する。

 先を行く仲間が突然、「オッ」と声を上げて立ち止まった。何事かと思ったら、登山道に1メートルほどのヘビがいて逃げない。落ちていた棒に引っ掛けて放り投げ、前へ進む。

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 戸隠側が切れ落ちた岩場を右へ巻きながら歩くと、西へ進んでいた登山道が南へ直角に左折する。荒倉山主脈の屈曲点だ。ここから上部は、ナラなどの雑木林に替わって杉やブナの林になる。

 到着した砂鉢山の小広い山頂は草ぼうぼう。周囲はカラマツ林に囲まれ、眺望もよくない。おまけにアブの大群にまとわりつかれる。10分いただけで下山に入り、少し下った登山道脇で昼食にする。

 帰路も転落しないよう慎重に足を運び、鎖場を下る。林に覆われ全体に暗い感じの山塊は「荒くれ山」のようだったが、鬼女紅葉伝説にふさわしい幽玄さにも包まれていた。
(横前公行)
(2019年9月7日号掲載)


写真上=稜線から望む戸隠連峰
写真下=鬼女が隠れ住んだと伝わる紅葉の岩屋
 
中高年の山ある記