
肺がんの治療法には、手術、放射線療法、薬物療法があります。どの方法で治療するかは、がんの種類、進行の程度と、患者さんの体力、内臓機能の状態などから判断します。ここでは、近年著しく進歩している「非小細胞肺がん」の薬物療法を中心に説明します。
3種類の薬物療法
非小細胞肺がんの薬物療法には、(1)細胞障害性抗がん薬(2)分子標的治療薬(3)免疫チェックポイント阻害薬―の3種類があります。
(1)の細胞障害性抗がん薬は、いわゆる「抗がん剤」のことです。細胞が増殖する過程を障害することによって、増殖力の強いがん細胞に対して抗がん作用を発揮します。しかし、がん細胞以外の正常な組織も障害を受けるため、吐き気や内臓の障害、脱毛、免疫力の低下や骨髄抑制などの副作用が起きます。
これに対し(2)の分子標的治療薬は、遺伝子の異常が発症のきっかけとなった場合に、その経路(標的)を狙い撃ちし、がんの増殖を抑える薬です。抗がん剤のような全身臓器への障害が比較的少ないという特長がありますが、肺や肝臓の障害、皮疹、下痢などの副作用もあります。
現在国内で使える薬は10種類ほどですが、遺伝子解析と薬の開発は続いており、今後さらに優れた薬が出てくることが期待されます。
免疫機能使う新治療
近年、(3)の免疫チェックポイント阻害薬という新しい系統の薬が使えるようになりました。2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞した、本庶佑(ほんじょたすく)博士の研究を基に作られた薬です。
体には免疫によって病気を抑え込む仕組みがありますが、がん細胞は免疫細胞にブレーキをかけ、自分自身を守ろうとしてしまいます。免疫チェックポイント阻害薬は、そのブレーキを解除して免疫機能を回復させ、がんを攻撃します。
抗がん剤のようなつらい副作用は少ないですが、免疫機能の変化に伴って肺の障害や、急性の糖尿病、内分泌異常、腸炎などの副作用が起きることがあるため体調の変化に注意しながら治療する必要があります。病状によっては抗がん剤との併用も勧められ、効果が期待されています。
どの薬剤が適しているかは、がん細胞の種類、治療に関連したがんの遺伝子変化や抗体の有無、患者さんの全身状態によって判断されます。医療の進歩によって選択肢は増えましたが、その中から、より患者さんに適した治療を提供できるように、私たちは日々心掛けています。
(2019年10月26日掲載)
吉池文明=院長補佐、診療部内科部長、呼吸器内科副部長=専門は呼吸器
イラスト
健康な状態では免疫細胞ががん細胞を攻撃する
がん細胞と免疫細胞の分子が結合して免疫細胞が攻撃をやめてしまう
阻害剤が分子同士の結合をブロック。免疫細胞ががん細胞を攻撃できるようになる