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2019年秋 01 ムモンアカシジミ ~きれいなオレンジ色の「ゼフィルス」

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 北信濃と新潟県にまたがる妙高戸隠連山国立公園で9月中旬に行われた県カルチャーセンターの館外講座「ふぉと森林浴」。牧草地が広がる高原の林縁で、純白の花を咲かせるサラシナショウマの蜜を吸う1匹のチョウが目に留まった。

 たくさん飛んでいるのを見かけたヒョウモンチョウより小形で色はオレンジ色。蛾の仲間? でもきれいだと思いシャッターを2コマ押す。その直後、チョウに詳しい花崎秀紀さん(長野市)が「ムモンアカシジミだ」と興奮気味にシャッターを切ろうとした瞬間に舞い立ち、樹林高くに消えた。

 シジミチョウ科で、本州中部以北から北海道に分布する。羽を広げると3センチほど。夏の終わりごろ発生。クヌギやコナラ、ミズナラ、ブナなどの広葉落葉樹の幹に産卵し、幼虫期はクサアリ類と共生、アブラムシやカイガラムシなどを捕食する半肉食性という。

 共生のアリが好む樹木を絶対条件とし、生息場所は局所的だ。「信州の蝶」(1996年、信濃毎日新聞社刊)によると、20年前(76年)に県内で記録された産地は33カ所あったが、3分の1に激減したという。県版レッドリストで準絶滅危惧種にランクされる希少種だ。

 国内25種いる森林性のシジミチョウの仲間「ゼフィルス」の一種。「長野県は、山地の冷温帯性と平地の暖温帯性の両種が分布し、21種が確認されている」と自然写真家栗田貞多男さん(73)=長野市。長野市周辺は、「まさにゼフィルスの森」という。

 栗田さんは、ゼフィルスに少年時代からあこがれ、93年には写真集「ゼフィルスの森」(クレオ刊)にまとめた。取材、撮影に15年の歳月を費やした。「深い森や明るい林、濃い緑の渓谷で繰り広げられるオレンジ色やメタリックブルーの小さくてカラフルな飛翔が魅力」と締めくくってある。
(2019年10月12日号掲載)


写真=牧草地の林縁、サラシナショウマで吸蜜するムモンアカシジミの雄=妙高戸隠連山国立公園で9月19日撮影
 
北信濃の動植物