
秋の気配が漂い始めた標高1300メートル余の高原の林縁で樹木に絡みつくヤマブドウの葉の上に、見慣れない小さなものが目に留まった。合計20個ほどが仲良く並んだり、単独で直立している。
厳密な区分けはともかく、虫えい、ゴールとも呼ばれる「虫こぶ」。こぶは、昆虫やダニ、線虫などが植物に物理的、化学的な刺激を与え、細胞が異常に増殖、肥大してできる。
国立科学博物館(東京)動物研究部で、ハチ類、特に「虫こぶ」を作るタマバチ研究で知られる井手竜也研究員(33)によると、「主な昆虫はタマバエ類やタマバチ類、アブラムシ類、キジラミ類など。種ごとに植物が決まっていて、部位は芽や葉、花、実、枝、根などさまざま。多くの幼虫は虫こぶを餌にして暮らす」という。
写真に収めたのは「ヤマブドウハトックリフシ」。ヤマブドウの葉にブドウトックリタマバエの産卵による刺激ででき、直径約3ミリ、高さは数ミリ~9ミリ。光沢のある赤色で円すい形。7月中旬から1カ月ほどで成熟し、下旬には中の幼虫は3齢に。9月下旬には葉から落下し越冬する。
作る側、作られる側、部位、形などは多種多様で、記録された種類は約1400を超すという。中に含まれる成分は古くから医薬や染料、お歯黒、インクの材料、皮のなめしなどさまざまな分野で利用されてきた。一方で、クリや桑、杉、小麦、稲などに虫こぶを形成する昆虫も知られ、害虫としての側面も併せ持っている。
利害とも身近な虫こぶだが、「ときに美しく、奇抜な形」と井手さん。なぜこんな形なのかもよく分かっていないとしながら、「身近でも見つかるので、小さな昆虫が作り出したとは思えない精巧さ、不思議さを楽しんで...」と観察を勧めている。
(2019年10月26日掲載)
写真=ヤマブドウの葉の上に並んだ虫こぶ「ヤマブドウハトックリフシ」=妙高戸隠連山国立公園で9月5日撮影