
9月に群馬県長野原町にある八ツ場(やんば)ダムを訪れた。関東地方の水源である利根川水系のひとつ、吾妻川に建設中の重力式コンクリートダムだ。高さ116メートル、湛水面積は3平方キロに及ぶ。1952(昭和27)年の調査開始から67年を経て、今年度中に完成の予定だ。
同ダムは景勝地として知られる吾妻渓谷の一部にある。隆起した火山列が吾妻川に削られ、風光明媚(めいび)な景色を生み出した。
公共交通機関で行くには少々遠い場所で、長野から片道2時間半という長旅だ。
軽井沢駅から草軽交通バス草津温泉行きに乗り、応桑道(おうくわみち)下車。すぐ隣にあるJR吾妻線羽根尾駅から電車に乗り換え川原湯温泉駅へ。

駅から15分ほど歩くと川原湯温泉だ。かつては山裾の傾斜地に宿が連なっていた。ダム湖に沈むため、山を削って造成した高台に温泉施設や住宅を移転した。
八ツ場大橋の入り口には「なるほど!やんば館」があり、ダム建設の概要やあゆみが展示されている。
大橋からは、ダムや周辺の山並みが一望できる。造成地や、湛水時の地滑り対策として下部から押さえる「押さえ盛り土工」の様子がよく分かる。橋の中央には高さ106メートルのバンジージャンプ台があり、観光客が楽しんでいた。
ダムのそばには「やんば見放台」があり、建設中のダムが間近に見られる。10月の試験湛水開始を控え、湖底に沈む風景を一目見ようと、多くの人が続々と訪れていた。車のナンバーを見るとほぼ関東各県だ。

国道145号を歩いて「道の駅 八ツ場ふるさと館」で休憩。ここも観光客で大にぎわい。施設の一角には、かつて起こった地元住民によるダム建設反対運動の経緯が大きな垂れ幕にまとめられていた。文末に、同地域の生活再建はこれからということを心に留めてほしい―と首都圏に住む人へメッセージを送っていたのが印象に残った。
最後は不動大橋から周囲を眺めた。10月下旬から山並みは紅葉で真っ赤に染まる。来年は目の前が広い湖となり、風景が一変するだろう。
滞在時間は4時間だったが、ひとめぐりで約7キロもあり、あっという間に時間が過ぎていった。
(森山広之)
(2019年10月12日号掲載)

写真上=八ツ場大橋からダムを眺める。かつては右下に川原湯温泉駅があった。高台には移転した川原湯温泉や打越代替地区が見える
写真下=不動大橋から上流側の様子。満水面に沿って木が伐採されている(9月23日)