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51 筑北村 善光寺街道 ~往時の雰囲気を残した家並み

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 長野と松本の間に位置する東筑摩郡筑北村。2005年に坂井、本城、坂北の3村が合併してできた。中山道の洗馬宿(塩尻市)と北国街道の篠ノ井追分を結ぶ善光寺街道(北国脇往還)が通る。このほど文化庁の「歴史の道百選」に選ばれた。秋晴れの一日、西条宿から麻績宿まで約9キロの街道をたどった。

 松本行きのJR篠ノ井線に乗り、西条駅で下車。平日の午前、ほかに電車を降りた人はいなかった。

 駅から近い裏通りが旧西条宿。本宿とは異なる簡易的な「間(あい)の宿」だったが、今も街は街道に沿ってある。重厚な瓦屋根の建物が多い。

 この辺りはかつて、「西条炭」と呼ばれた石炭の産地だった。1883(明治16)年に採掘が始まり、周辺に続々と炭鉱が開かれた。1900年の篠ノ井線開通でさらに盛んになり、数十カ所の坑道から西条駅や坂北駅を経て松本や、岡谷、松代へ運ばれ、製糸工場の動力の燃料になったという。

 63(昭和38)年に閉山。炭鉱としての歴史は80年間だった。鉱業権登記のために置かれた旧松本区裁判所西条出張所の建物が、西条の街に残っている。

 西条駅から4キロ足らずを歩いて坂北駅に着く。駅の先にある青柳宿は本宿で、往時の雰囲気を残した家並みが、静かにたたずんでいる。

 宿場町の長さは約600メートル。江戸時代後半には旅籠屋11軒、茶屋7軒があったという。坂道に沿う石垣の上に家が建てられ、石垣の中に水路が通っているのが特徴だ。今も水が流れている。

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 家々の玄関に、不思議な飾りがつるされている。赤や黄、緑の色紙が付いたひもを、リースのように輪にして掛けてある。

 村教育委員会によると、これは「ハナ(花、華)」といい、魔よけや家内安全を願う物。地区の神社で行われる祭りの後に持ち帰り、次の祭りまで玄関に飾るという。地域の伝統的な習俗が生活の中に自然に息づいているのを見て、なんだかうれしくなった。

 青柳宿を過ぎて林の中を進むと、切り通しがある。戦国時代に大きな岩をうがって道を通し、江戸時代にさらに3回切り下げたという。のみの跡が生々しい。岩肌では、大小の石仏が旅人を見守る。

 切り通しを過ぎると、麻績村。静かな山道の先に、突然高速道路が現れて驚かされた。高架橋をくぐった後、聖高原駅近くの麻績宿まで、高速道路を走る車の「ザー」という音が響き続けていた。
(竹内大介)
(2019年11月9日掲載)


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写真上=重厚な青柳宿本陣の建物
写真左=玄関に飾られた色鮮やかな「ハナ」
 
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