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53 飯田市 ~飲み屋が多い「丘の上」の街

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 南信の主要都市、飯田市(人口約10万人)は、長野市からの直線距離は130キロ。石川県金沢市や栃木県日光市までとほぼ同じだ。飯田まではJRを乗り継ぐ電車より高速バスで行く方が早い。それでも3時間少しかかる。

 飯田の中心市街地は「丘の上」と呼ばれる。天竜川支流の松川と野底川に挟まれた一段高いエリアで、飯田城とその城下町だった。

 城は、丘の東寄りに岬のように突き出た突端にあった。今は温泉旅館や長姫神社、飯田市美術博物館などがある。城の遺構はほとんど残っていないが、周囲より50メートルほど高い丘の上から郊外が広く見渡せ、城を築くのにふさわしい場所だったと感じさせる。

 博物館には、日本画家・菱田春草(1874~1911年)の常設展示がある。春草は飯田藩士だった家に生まれ、15歳まで飯田で過ごして上京。横山大観らと共に新しい日本画を探求し、輪郭線を描かない「朦朧(もうろう)体」の技法で名作を生んだ。

 丘の西寄りは、長方形の街区が整然と並ぶかつての城下町で、今は商業地になっている。中央を南北に広い道路が貫く。

 1947(昭和22)年に起きた飯田大火では、城下町にびっしりひしめく家屋が次々に類焼し、市街地の7割を焼失した。幅約30メートルの広い道路は、その教訓から防火帯として造られた。道路の中央に中学生がリンゴの木を植え、「りんご並木」と呼ばれる。

 寺が集まる伝馬町にも道路が通っている。ここでは、道路予定地にあった墓地を取り壊し、納骨堂に集約することも行われた。街の将来のためとはいえ、先祖が眠る墓を壊すのは檀家(だんか)にとって重い決断だったろう。

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 飯田は人形劇の街。市内には黒田人形、今田人形の二つの伝統的な人形浄瑠璃が伝わり、毎年人形劇フェスタも行われている。丘の上にある「川本喜八郎人形美術館」では、NHK人形劇「三国志」などの人形を作った川本さんの作品が見られる。

 街を歩くと、居酒屋、バー、スナックなどの「飲み屋」が多い。商業地の銀座周辺を中心に丘の上全体に広く分布し、どの通りにも何軒かずつある印象だ。焼き肉店も多く、人口当たりの軒数は全国1位。城下町らしく老舗の和菓子店も多い。

 アーケード商店街には個性的な個人商店がたくさんあり、のぞきながら通りを歩くのが楽しい。地方都市では珍しくなった生き生きとした街の魅力を感じた。次回は泊まりで訪れて、飲み屋をはしごしてみたいと思った。
(竹内大介)
(2020年1月11日掲載)


写真上=広い中央分離帯にリンゴの木が植えられた「りんご並木」

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写真左=川本喜八郎さんの人形「諸葛孔明」
 
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