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05 生徒会長選挙 ~自分で考え自分を表現 「私」を駆り立てた落選

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 ここだけの話ですが、実は私、選挙に2回出て2回共に落選しています。「え? いつの参議院選ですか? それとも衆議院選?」と言う人もいるかもしれませんが、私は国政選挙には出ていません。ましてや地元・須坂市の市長選にも出たことはありません。「では、何?」ということですが、私が出たのは児童会長、生徒会長の選挙です。

 小学校の時に児童会長になぜ立候補したのか、まったく覚えていません。思い出すのは立会演説会で、すごく緊張したこと。そして落選して「児童会書記」になったことです。ただ何をしたのか覚えていません。

 しかし、中学校の「生徒会長選挙」ははっきりと覚えています。それだけに「落選」したことが「トラウマ」として残っています。

 生徒会長選挙には確か3人立候補しました。私とM君、K君です。この3人がテストの成績では学年で3番以内に入っていて競っていたと言っていいでしょう。正確に言えばM君、私、K君の順でしょうか? 加えてM君はバレボール部のエースアタッカーで女の子にももてて一番人気でした。言ってみれば、M君、私、K君という下馬評でした。

 投票前に「立会演説会」がありました。全校生徒および教職員が集まった講堂で立候補者が一人ずつ自分の意見を述べるわけです。トップバッターは確かK君でした。

 K君は小泉元総理ばりのジェスチャーで意表をついてきました。どちらかというと体育会系の大げさなパフォーマーです。「やるな」とびっくりはしましたが焦りはありません。逆に冷静になったくらいです。

 次は私の番でしたが、今思うとありきたりの可も不可もない面白みのない演説を私はしたと思います。この可も不可もない、「普通」というか「優等生」キャラクターが当時の私の持ち味でした。

 次はM君です。

 壇上の候補者席に座ってM君の演説を聴いているうちに、その話に思わず引き込まれている自分を発見しました。今となっては話のディテールは定かではありませんが、自動車の4輪にたとえてM君は自分の考えを述べました。2輪の単車だとどちらかに傾いてしまうと倒れやすいが、4輪の自動車には安定感がある。だから先生たちと生徒がしっかりとスクラムを組んで、今で言うなら「ワンチーム」となって頑張ればいいのではないかということを主張しました。

 「そんな生徒会に私はしたいと思います」

 M君がそう締めくくったとき、ドーッと拍手が湧き上がりました。そこには思わず拍手をしてしまう私もいたのです。正直言って「負けた」と思いました。

 当たり障りのないことしか言えなかった私に比べると、M君は自分の考え方を、自分の言葉、自分の感情で、しかも自分の身ぶり手ぶりで表現していたのです。「すごいな、この人は...」と思いました。

 その時に思ったことは、自分で考えて、それを自分の言葉で表現しなければいけない、ということ。「よーし、おれも負けないぞ」。そんな熱い思いが「打倒!M君」という大きなエネルギーを生み、さらに私を猛勉強に駆り立てたのです。選挙落選というトラウマが「私」という私をつくったのです。

(2020年2月1日掲載)

写真=中学時代の私
 
富沢一誠さん