
冬は乾燥肌の季節です。暖房で空気が乾き、加湿器を使っても皮膚のかゆみが止まらない人もいるでしょう。肌の乾燥について家族に「年なんだから」と言われたり、自分に「年だから」と言い聞かせたりしている人もいるかもしれません。
でも、ちょっと待ってください。そのかゆみ、本当に年齢のせいですか? ダイエットのために、肉や白米を食べるのを制限していませんか? もしかすると、かゆみの原因は「亜鉛欠乏症」かもしれません。
きれいな肌をつくる肉
亜鉛は、体のバランス維持に必要な微量元素の一つです。肌の「角層」と呼ばれるバリケードや、舌の味を感じる部分(味蕾(みらい))、性ホルモンを作るときなどに必要な栄養素です。
亜鉛が不足すると角層が薄くなります。角層は、肌の表面に角化細胞という板を皮脂でたくさん貼り付け、バリケードを作っています。このバリケードの出来が良い状態が「きめの細かいきれいな肌」です。亜鉛はこの構造を作るときに必要な工具のようなものです。亜鉛が足りないとこの構造がうまく作れず、ばらばらの荒れた肌になってしまいます。
亜鉛を多く含むのはカキ(牡蠣)で、5粒も食べれば1日に必要な量を摂取できます。ただ、カキは毎日食べるものではありません。多くの人は、亜鉛を牛肉などの赤身から摂取しています。魚にはあまり含まれません。
肉といえば、豚肉の脂身には「ニコチン酸」が多く含まれています。ニコチン酸は皮膚の土台である基底膜の材料で、不足すると日光に過敏になる、肌がもろくなる、記憶力が落ちる、幻覚を見るなどの不調をきたす大切な栄養素です。豚の脂身はビタミンB1も豊富で、疲労回復にも重要です。
肉を食べることは、皮膚を健康に保ち、全身の機能を維持するために大切なのです。
フィチン酸に注意
亜鉛を取るときには、「フィチン酸」に気を付けなくてはいけません。これは、有害物質の取り込みを抑えますが、同時に亜鉛などの微量元素の取り込みも邪魔するのです。
フィチン酸は穀類、豆類などに含まれ、特に玄米、雑穀米に多い成分です。白米はほとんど含みません。若い人の食事は元々栄養過多なので、食物繊維が多く取れる雑穀米や玄米は体に良いのですが、食事量と吸収率が落ちてしまった高齢者では、「フィチン酸」は栄養失調の原因になります。フィチン酸を含まない白米が良いのです。
ですから私は、「70(歳)過ぎたら肉に白米!」と言っています。少量でもぜいたくな食事がおすすめなのです。
(2020年2月8日掲載)
村田 浩=皮膚科部長、フットケアセンター科長=専門は皮膚悪性腫瘍