
長野市松代町東条の尼厳山の山里に国蝶オオムラサキの生息地が点在する。一帯は幼虫が食べるエノキや成虫の餌となる樹液を出すクヌギやコナラなどが豊富で必要な条件が整っている。
その幼虫が越冬中と聞き、この地で観察を続けている花崎秀紀さん(68)=長野市=に案内してもらった。越冬前の幼虫が糸で固め活動拠点にした葉が残ったエノキ、範囲は根元の1メートル以内など探すポイントを教えてもらい、葉の裏(下)に休眠している幼虫を慎重に一枚一枚ひっくり返し探した。
すぐに2匹を発見。長さは15ミリほどと小さく、特徴の背中の突起は4対、1対の角がある顔は何ともかわいらしく、葉の色と同じ褐色の保護色に驚く。
一帯を主な取材場所として、自然写真家栗田貞多男さん(73)=長野市=はオオムラサキの生活史を克明に撮影、記録し写真集「オオムラサキ」(信濃毎日新聞社、2007年刊)にまとめた。
栗田さんによると、脱皮を繰り返して育った幼虫は、冬が近づき日が短くなると越冬の準備を始める。摂食をやめ、ひと回りスリム化、外敵から身を守るため緑色から枯れ葉の褐色に変身する。11月ごろ「冬」を感じ取った夜、一斉に食樹を降下、根元の落ち葉の中に潜り込む。

約半年の間、寒風や降雪などをしのぎ厳しい冬を過ごすため、乾燥や過度の湿気が少ない幾重にも重なった葉の真ん中ほどを選び休眠、春を待つという。
山里の一角には20年ほど前から保護活動を続けている生息地「国蝶オオムラサキの里」がある。自然観察グループ「スハマ会」などが中心となり、草刈りや樹木の手入れ、増殖の手助けなどをしている。
「2006年には大量発生し千匹を超した。逆にゼロに近い年も」と地元在住の同会事務担当の小林正さん(77)。数年前から、越冬幼虫を集めてネットに入れ天敵から保護し、食樹が芽吹くころ、小分けして枝に戻すという。
長い冬から目覚めた幼虫が再び活動を始める春はもうすぐだ。
(2020年2月15日掲載)
(冬シリーズおわり)
写真上=伏せた頭部を下から見ると角や目玉、口が動物の顔のように見える。
同下=エノキの落葉の下で休眠するオオムラサキの越冬幼虫(下)=長野市松代町で1月24日撮影