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10 文化祭のステージに ~大歓声に「受けた」と満足 「勘違い」と後に分かる

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 高校時代の私は年がら年中「受験勉強」をしていました。平日は8時間半、土曜・日曜日はしめて15時間ほど勉強をしてまさに「ガリ勉」の代表でした。

 そんな私にとって唯一の息抜きは好きな歌を歌うことでした。それが高じたのか、私は高校1年生の時に、「金鵄祭」という文化祭の芸能大会に飛び入り出演したのです。

 当日、会場の体育館は2千人余りの人々で満員でした。私が、NHK「のど自慢」の出演者のように「1年2組、富沢一誠。西郷輝彦の『星のフラメンコ』を歌います」と言うと、客席から「イヨー!トミサワ、日本一!」という掛け声が飛んできました。「好きなんだけど 離れてるのさ」と歌うと客席がドーッと沸きました。「遠くで星を見るように」と続き、「好きなんだけど」と歌うと再びどよめきが起きました。 

 私はめちゃくちゃに受けているものだと気分を良くして、ラストの「星のフラメンコ」というフレーズを思い切り大きな声で「ホーシーノー、フラ、メーン、コーホー、ホー、ホー、ホー、ホー」と決めました。私がステージを去るとき、ドカッ、ドカッと10個くらいのトイレットペーパーが投げ入れられ、すさまじいばかりの歓声が沸き起こりました。「やったね!」と私は満足してステージを後にしました。

 しかし、これは大きな勘違いだったのです。それは後日分かることなのですが...。その日、文化祭には私の従姉が女子高の友人を連れて見に来ていました。私が従姉に「文化祭に出て歌うから誰か友達を連れて見に来てくれないか」と頼み込んでいたからです。

 私がステージに登場すると従姉は「あれが私の従弟よ」と自慢げに言ったそうです。当然のことながら友達は期待をします。ここまでは従姉も余裕です。ところが、私が歌い始めた瞬間、目の前が真っ暗になったそうです。私が始まりから音程をはずしていたからです。「なに、これは...」とただならぬ気配に従姉は逃げ出したくなったとか。これは後日、彼女から聞いた本当の話です。

 「一誠君があんなに歌が下手とは思わなかった。出だしから音程が取れていないし、リズムもガタガタで『音痴』と言われてもしょうがないほど。私の友達は長野高校の文化祭ということで期待して来たのに、あれじゃ、私の立場がないじゃないの」

 従姉の話を聞きながら、彼女が何を言っているのか私には分かりませんでした。なぜなら、こちらは大いに受けたと思っているからです。まったく「勘違い」とは恐ろしいものです。「イヨー!トミサワ、日本一」。これを「受けた」と勘違いしてしまったのです。人間予期せぬことで受けるほど怖いことはありません。「ひょっとしたら」と思ってしまうからです。

 文化祭には2年生の時も出ました。このときは歌ではなく、芝居というか寸劇で参加したのです。当時、江波杏子主演の映画、女賭博師シリーズがヒットしていました。私は、江波演じるところのツボ振りの「昇り龍のお銀」にはまっていて、同じクラスの友人を巻き込んでこれを寸劇にしたというわけです。もちろん、ツボ振り師に扮(ふん)したのは私。いずれにしても歌と寸劇が受験勉強を続ける私にとっては最良の息抜きだったのです。
(2020年3月7日掲載)


写真=文化祭でツボ振り師に扮した私(中央)
 
富沢一誠さん