
今回は、肝臓・胆のう・膵臓(肝胆膵)の外科手術の進歩について解説します。
肝胆膵外科領域では、1980年代に胆のう摘出術が腹腔鏡を使って行われるようになり、現在では標準的な方法になっています。しかし、それ以外の肝臓と膵臓手術のほとんどは、おなかを大きく切開する開腹手術が主流です。
肝胆膵外科の手術は、複雑な解剖の知識と高い技術が必要とされます。そのことが、胃や大腸と比べて腹腔鏡手術が発展しなかった原因の一つといえるでしょう。腹腔鏡手術は体に優しいとされますが、難易度の高い膵臓や肝臓の手術に用いたことで、患者が死亡するなどの重大な結果を招き、社会問題となったこともあります。
肝胆膵にも徐々に普及
専門医がいて数多くの手術を手掛ける医療機関では、そうした問題を教訓に、患者さんの負担を軽くする腹腔鏡手術を肝胆膵外科領域に安全に応用する方法を探求してきました。その結果、現在では肝臓の小さな切除(部分切除)から大きな切除(系統的切除)まで、さまざまな手術が腹腔鏡を使って安全に行われるようになってきました。初めは良性疾患のみに限られていた膵臓の分野でも、今では膵臓がんの腹腔鏡手術(膵体尾部切除)が保険を使ってできるようになっています。
当院は腹腔鏡を早くに導入し、胃や大腸の手術に使ってきましたが、肝胆膵外科領域では開腹手術を基本とし、単発的に肝臓や膵臓に対する腹腔鏡手術を行ってきました。そして2018年、小さな肝切除(肝部分切除)に腹腔鏡手術を導入し、19年12月までに12例の肝部分切除と1例の外側区域切除を行いました。膵臓の良性腫瘍に対しても腹腔鏡下膵体尾部切除を行い、今後は徐々に数を増やしていこうとしています。
安全性を大切に
腹腔鏡手術はあくまでも手段であり、目的ではありません。大事なのは、患者さんの安全性です。そしてがんの場合は、根治する可能性を落とさないことです。腹腔鏡は使われるようになってから日が浅いため、病気の進行度によって開腹手術を選択することも多いですが、安全性と根治性を担保した上で、患者さんに負担のかからない手術が行えると判断した場合には、腹腔鏡手術を選んでいます。
長野市民病院には高い難度の手術を安全に行える資格を持った専門医・指導医がいます。今後も安全を第一に考えながら、体に優しい腹腔鏡手術を発展させていきたいと考えています。
(2020年3月7日掲載)
高橋 祐輔=肝臓・胆のう・膵臓外科科長、外科科長、消化器外科科長=専門は肝臓、胆道、膵臓