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55 伊那市 ~街道が交わる交通の要衝

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 伊那市は、天竜川沿いに開けた上伊那地方の中心都市。古くから、街道が交わる交通の要衝だった。

 伊那街道(三州街道)は、塩尻から伊那、飯田を経て三河(愛知県)に至る南北の道。その宿場の一つだった伊那部(いなべ)宿には、西から木曽を起点に権兵衛峠を越えてきた権兵衛街道、東から甲州街道を分岐し高遠を経てきた杖突(つえつき)街道が交わった。

 伊那部宿は、JR飯田線伊那市駅から西へ約500メートル。今も長さ約330メートルの真っすぐな旧宿場の家並みが残り、南の端には豪農で、造り酒屋を営んだ旧井沢家住宅がある。中南信に見られる重厚な「本棟造り」で、300年前の建物だ。一度解体された後に復元され、内部を見学できる。

 旧宿場からほど近い所に、4階建てのレトロな洋館がある。伊那創造館だ。1930(昭和5)年に上伊那図書館として建てられた。現在は伊那市の社会教育施設として、企画展示や学習室の開放をしている。

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 「昆虫食」の特別展が4月13日(月)まで行われている。北信でもなじみ深いイナゴ、蜂の子に、ざざ虫とカイコのさなぎを加えたのが伊那の4大昆虫食という。ざざ虫は特定の種類の昆虫ではなく、ヘビトンボやカワゲラ類の幼虫の総称。天竜川で専用のかんじきや網を使って漁を行う。北信とは大きく異なる伊那の食文化を改めて痛感した。

 伊那市駅の北にはアーケード商店街がある。昭和の趣を残す食品店や呉服店、書店などが並ぶ。アーケードの上の2階部分を見上げると、洋風のレトロな壁面デザインを施した「看板建築」が面白い。商店街はシャッターを下ろしたままの店が目に付くが、それに交じって新しいしゃれた飲食店も増えつつあるようだ。

 昼食はご当地グルメのローメン。麺を羊肉、キャベツと一緒に蒸し煮にした料理だ。誕生した55(昭和30)年には冷蔵庫がなかったため、麺を蒸して保存性を向上させたこと、羊毛産業が盛んだったことが背景にある。今では市内外の約90店で提供し、学校給食でも出るのだという。

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 北側の辰野町から伊那インター近くの田園地帯には、円筒分水工群がある。農業用水を用水路から正確に配分し、水争いを防ぐための構造物だ。西天竜幹線水路に沿って約40もあり、国内最大規模だ。

 均等の間隔で穴が空いた円形のコンクリート筒から水が出る仕組みだが、この時期は水が流れないのが残念。春から夏にまた訪ねたい。
(竹内大介)
(2020年3月14日掲載)

写真上=2階のレトロなデザインが目を引く商店街

写真下=用水を配分する円筒分水工。中央の地下から出た水が側面の穴から流れ出る
 
小さな日帰り旅