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15 友人と京都へ ~所持金に「目の前真っ暗」 無謀な旅「どうにかなるさ」

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 その日、私たちはいつものように駒場東大前の喫茶店「レオ」で暇つぶしをしていました。大学は今日も近くて遠い存在でした。メンバーは、私と友人の金田、堀内の3人。3人ともいつも変わらぬ日常にうんざりしていました。レオに3時間ばかりいたでしょうか。レコードを聴くのも、マンガを読むのも、わい談にも飽きて3人とも無口のままでいると、突然、堀内が沈黙を破って言いました。

 「あーあ、暇だな。京都へでも行こうぜ」

 冗談とは知りつつ、私も調子を合わせて言いました。

 「それはいい考えだ。みんなで京都へ行こうぜ」

 すると、どうしたわけか、それまで眠りにふけっていたはずの金田が急にのり気になって言いました。

 「そうしようぜ。どうせ暇だし、ここにいたってしょうがない。な、行こうぜ」

 金田の迫力に押されて私たちの京都行きは決まりました。出発は今夜だ。今夜の夜行列車に乗って京都へ行こうという計画でした。金はないし、無謀な旅ですが、そのときの私たちの心境はまさしく、かまやつひろしの「どうにかなるさ」という歌の気分でした。

 別にあてなどないけど、まあどうにかなるさ。これがそのときの私たちの心情そのものでした。だからこそ、私たちはこの歌を歌いながら夜行列車に乗り込み、東京を後にして京都へ向かったのです。目的など何もなかった。だけど、どうにかなるさ、と思っていたのです。

 それにしてもお金は持っていません。有り金を全部出し合うことになりました。そのときの所持金は私が一番持っていて1万3千円。堀内が1万円。金田はなんと、たったの千円。しめて2万4千円。これで旅行などできるだろうか。私は目の前が真っ暗になりました。お金のことを念頭において3人で相談を始めました。

 「2万円ぽっちでどこ行ける?」「ちょっとやばいんじゃない」「やめようぜ」などと互いに言い合っていると、ここでまた金田が金を持っていないにもかかわらず言い放ちました。

 「金がなくたっていいじゃないか。どうせ暇なんだし。な、京都へ行こうぜ」

 またここで形勢が180度逆転。こうして京都行きが決まりました。

 ここは東京駅。土曜日のせいかやたらと混雑していました。私たちは京都までの急行の切符と、駅の売店でフランスパンを1本買い、待合室に行き、腹ごしらえとばかりに三つに分け合って食べました。人並みの飯を食べている金などありません。なんといっても有り金全部はたいても2万4千円。残りはたったの9千円。これだけのお金で京都で1週間すごそうというのだからむちゃくちゃです。しかも見ず知らずの京都で3人で。ご飯も食べなければならないし、泊まる所も確保しなければならない。

 「死ぬんじゃないか」と私は心配になってきましたが、ここまできたらもう行くよりほかにすべはありません。

 「どうにでもなれだ」

 京都での1週間は筆舌につくせないことがありました。

 (閑話休題)
 いくつかの思い出を胸に抱きながら、私たちは東京行きの夜行列車に飛び乗りました。列車の窓から眺める京都タワーの光は、寒空にこうこうと照りつけ、私たちに「また来いよ」とささやきかけているようでした。
(2020年4月11日掲載)



写真=「いざ!京都へ」。学生時代の私
 
富沢一誠さん