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2020年春 01 ダンコウバイ ~甘い香り 花火のような黄色の花

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 善光寺平北部を眼下に望む長野市若槻の里山。旧北国街道沿いの上野から田中地区の裏山には、三登山へのトレッキングルートや土京山城跡、休耕地を利用した桜公園などが広がる。まだ芽吹き前の殺風景な雑木林の中で、3月中旬、鮮やかな黄色の「ダンコウバイ」が花を咲かせた。

 クスノキ科で、3月に入ると葉に先立って花を開かせ春到来を告げる。高さは3~6メートル。新潟県以西の本州、四国、九州の暖地系の落葉低木で、県内一円の低い山地に生育する。

 人の背丈ほどの樹木の枝はふぞろいながら、親指の爪ほどの大きさの塊の花をたくさん付け、花火のようだ。撮影のため近づくと甘い香りが漂ってきた。材も芳香を持ち、「檀香(だんこう)」は香木の総称で楊枝や細工に用いられるという。

 同じ頃、同科で仲間の「アブラチャン」も花を咲かせる。見分けが付きにくいが、花はダンコウバイより黄緑がかった淡い黄色。「チャン」は石油や天然ガスを指し、樹皮や種から採取した油を灯火に用いたことから「アブラジシャ」とも言う。

 長野市生まれで、植物の民俗学的研究で知られた故宇都宮貞子さんは「春の草木」(新潮文庫)の中で、「だんこうばい」を取り上げている。長野市の信更、浅川、小田切、鬼無里や信濃町、駒ケ根市、新潟県の六日町などを訪ね歩き、各地の言い方や暮らしとの関わりなどを方言たっぷりに、親しみやすいエッセーにまとめている。

 雌雄異株で花の違いからか、「オトコジシャ」や「オンナジシャ」まで出てきて興味深い。最後に、「この仲間はみな枝を切るといい匂いがするが、(中略)遠く近くぼーっと黄色く霞(かす)んで見える風景は、人の心を浮き立たせるものだ」と結んでいる。
(2020年4月4日掲載)


写真=芽吹き前の雑木林の中で、黄色の花を付け春を告げるダンコウバイ=若槻上野で3月21日撮影
 
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