
中野市立ケ花でニホンイタチを撮影した3月21日、野鳥を狙っていたレンズに胸から腹部が鮮やかなオレンジ色の小鳥が飛び込んだ。冬鳥として秋深まるころ中国やサハリンなど北方から日本に渡来、春先には再び帰ってゆく渡り鳥ジョウビタキの雄だった。
ツグミ科で、スズメ大の14センチほど。春先に北帰行をしないで日本に留まり、繁殖していることが分かったのは比較的最近のことだ。2010年6月、日本野鳥の会諏訪支部名誉支部長の林正敏さん(76)が、八ケ岳山麓の富士見町で営巣を確認した。1983年の北海道に次ぐ国内2例目の確認で、本州では初めてだった。
林さんと同支部の仲間らはその後、霧ケ峰や塩尻市など諏訪地域で14例を確認。14年に「渡りをしないで定住する」と学会に発表した。けがなどで留まっているのではなく、餌や環境が良く、渡りより危険が少ない定住を選ぶようになったのではと分析した。
「繁殖場所は、標高1000~1300メートルほどの別荘やペンションなどで、人間の目で見ても気持ちのいい開けた空間」と林さん。玄関先や通用口など人の気配がするちょっとした場所に、回りをコケで覆い、中には小枝や鶏の羽、シカの毛などを敷き詰めた巣を作る。ツバメやスズメなどと同じで、カラスやヘビなど天敵から守ってもらう人間に依存した子育てという。

その後、林さんらは18年までに全64例を確認。このほかにも、県内では上高地、4年ほど前には志賀高原、昨年は諏訪市街地で、県外では岐阜県や鳥取県でも確認事例が続いている。
雄を撮影した同じ場所で、4月8日、雄より地味だが、人懐っこいサービス旺盛な雌を撮影した。繁殖にはまだ早いが、林さんに電話で報告すると、「同時に雄がいなくても、近くで繁殖の可能性も」と声を弾ませていた。
(2020年4月25日掲載)
写真上=芽吹いた小枝で「見返り美人」の雌(4月8日撮影)
写真下=フェンスの上でポーズをとる雄(3月21日撮影)