
諏訪地域の東部、八ケ岳の裾野に広がる茅野市。市域の北東に蓼科、白樺湖などの高原リゾート地があり、南西寄りのJR中央線茅野駅周辺に市街地の中心がある。
茅野駅の改札を出ると、通路に縄文時代の土偶をデザインした垂れ幕が下がり、駅近くには土偶のオブジェを置く公園もある。市内の遺跡で出土した二つの土偶が国宝に指定され、市が積極的にPRしている。
国宝土偶は「尖石(とがりいし)縄文考古館」で常設展示している。茅野駅からバスで20分。八ケ岳裾野のなだらかな傾斜地に尖石遺跡が、その近くに考古館がある。
国宝土偶は、ふくよかな女性をかたどった「縄文のビーナス」と、逆三角形の顔と太い脚が印象的な「仮面の女神」。照明を落としたほの暗い展示室に、2体が神秘的にたたずむ。「縄文のビーナス」は星を散らしたようにキラキラ輝いていた。表面の雲母が光っているらしい。
駅に戻ると、タクシー乗り場近くに高さ3メートルほどの白い四角柱が立っている。寒天のオブジェだ。茅野の名産品で、駅前の土産物店では手作りの角寒天が売られている。

茅野の寒天作りは、江戸時代の1840年ごろに始まった。気温が低く、晴れて乾燥する冬の気候が、寒天の天日干しに適していた。昭和の初めに下火になった製糸と入れ替わりに、寒天作りがさらに盛んになった。
駅から15分ほど歩いた宮川地区に、寒天蔵が4棟残っている。昭和初期、岡谷の繭倉を移築し、寒天を保管する倉庫にしたのだという。天井の低い3~4層のシルエットが特徴的だ。
駅前商業ビル「ベルビア」の中には、映画監督・小津安二郎(1903~63年)のコーナーがある。蓼科高原に小津の山荘「無芸荘」があったためで、茅野市では小津を記念する映画祭も毎年開かれている。コーナーでは小津のカメラなどの遺品、撮影中の写真や映画祭ポスターなどを見ることができる。

駅の東を流れる上川沿いには「木落とし公園」がある。諏訪大社上社の御柱祭で、山出しのハイライト「木落とし」が行われる長さ36メートル、最大斜度27度の急坂だ。坂の上に立ち、柱にすがって滑り降りるのを想像すると、すぐ下の川まで押し出され、落ちてしまいそうに感じた。
御柱祭は善光寺御開帳の翌年に行われるから、次回は2022年。木落とし公園周辺は見物客で埋め尽くされる。
(竹内大介)
(2020年4月11日掲載)
写真上=木落とし公園の上から茅野駅方面を眺める。直下に上川が流れ、中央線が走る
写真下=3層の内部に寒天を保存した寒天蔵