02 鮮明な記憶を優先 ~偏った直観的判断の恐れ

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 家事の分担で家族ともめたことはありませんか。自分ばかりが家事をして、誰も手伝ってくれないとぼやく奥さんは多いことでしょう。逆に、家事に参加、協力しているのに認めてくれないと不満を感じる旦那さんもいるかもしれません。

 自分が損している、相手が理解してくれないなど、わだかまりを抱いたままでは精神衛生上、良くありません。良い家族関係もつくれないでしょう。そうした心のもやもやをなくすために行動経済学が役立ちます。

 2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏が著書「ファスト&スロー」で紹介している面白い実験があります。夫と妻の両方に「自分の家事への貢献度」を聞いたところ、別々に答えたパーセンテージを合計すると、100%を超える結果が出ました。2人とも自分が行っている家事の割合を、多く見積もったのです。

 では、実験に参加した夫婦は、うそつきやわがままなのでしょうか。そうではありません。これは、利用可能な記憶だけで物事を判断してしまう「利用可能性ヒューリスティック(直観的判断)」というバイアス(物の見方の偏り)が原因なのです。

 人間は思い出しやすい記憶を優先します。記憶が鮮明な事柄は、その頻度や確率が高いと判断するのです。家族が行った家事は印象が薄いけれど、自分の家事はよく覚えているため、実際よりも多いと認識してしまうのです。これは、それぞれが無意識に下す判断であり、どちらにも悪意はありません。

 家事以外でも同様の誤解は起きます。会社の仕事であれ、学校行事の準備であれ、共同作業において人は常に、自分の貢献を多めに見積もる可能性があるのです。そんな誤解で人間関係を損なってしまうのは、ばかばかしいですね。

 失敗を防ぐ第一歩は、自分の心にバイアスが働く可能性があると認めることです。バイアスの有無を自分に尋ねる習慣があれば、きっと平穏な人間関係や、心の平和につながるでしょう。
(2020年5月30日掲載)