
地震、津波、洪水などの自然災害、人為的な事件や事故などは、被害に遭った人の生活を一変させ、大きなストレスをもたらします。
災害に伴うストレスには(1)死を覚悟するような強い恐怖を伴うトラウマ体験(心的外傷体験)(2)大切な人や慣れ親しんだ家などを突然失う喪失体験(3)災害後の生活ストレス(避難所や仮設住宅での不便な生活、経済的な不安)―などがあります。どれか一つでも大変ですが、これらが複合的に起こるのが災害の特徴です。
被災後の反応
強い恐怖を伴う体験をした直後から1カ月ほどの間は、不眠、抑うつ感、自責感、不安、怒り、無力感、集中困難など、多様な精神症状(トラウマ反応)が現れやすいとされます。悪夢やフラッシュバック(被害当時の体験と感情が何かの拍子に想起されること)が現れることもあります。子どもでは、ストレスが発熱や嘔吐(おうと)などの身体症状として現れることも珍しくありません。
こうしたトラウマ反応は「異常な事態における正常な反応」であり、誰にでも現れる可能性があります。しかし多くの場合は、安全が保障された生活の中で、休息や気晴らしの時間を意識的に取ったり、リラクセーション法(呼吸法や筋弛緩法など)や軽い運動をしたりすると、自然に軽快していきます。
社会的なサポートも回復を手助けします。「何かあっても周りに手助けしてもらえる」「自分は○○に所属している」といった感覚が、何かを恐れる気持ちを軽くし、問題解決に立ち向かう気持ちを高めます。家族や友人、災害支援員、ボランティアなどの存在は重要で、被災者同士のつながりや体験の共有も回復に役割を果たします。
時間がたっても症状が治まらなかったり、後から症状が出てきたりすることもあります。1カ月を過ぎても治まらないようであれば、かかりつけ医や専門医(精神科や心療内科など)を受診しましょう。
この「1カ月」というのは目安です。症状がつらいと感じるなら、自力で解決しようと頑張り過ぎず、早めに医療機関や相談機関に相談してください。
共感的に耳を傾けて
災害後の心理的支援として、かつては被災後のできるだけ早い時期に、トラウマ体験とそれに伴う感情を語らせることがストレス関連障害の予防に有効とされていました。しかし最近では、早い時期に行うと弊害があることが指摘されています。
周囲の人がサポートする場合も、トラウマ体験について根掘り葉掘り聞くことは控え、被災した人が話したいと思った時に、共感的に耳を傾けるよう心掛けたいものです。
(2020年5月30日掲載)
北沢 早苗=小児科(公認心理師・臨床心理士)