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2020年夏 01 アズマシロカネソウ ~岩壁に一本立ち 湧き水浴びて咲く

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 5月下旬、「幻の花」といわれるトガクシソウを見たくて2年ぶりに奥信濃の深山の渓谷に足を運んだ。暖冬の影響か、大半は花が散っていたが、以前撮影できた株だけは同じく満開だった。「再会」を喜びながらカメラのシャッターを押していると、同行した仲間が「アズマシロカネソウが...」と教えてくれた。

 周辺に目を向けると、ほぼ垂直に近い岩壁の草付きの中に一本立ちしたアズマシロカネソウを数株見つけた。上からしたたり落ちる湧き水を浴びている大株もあり、小さな花がうなだれるように咲いていた。

 キンポウゲ科。牧野日本植物図鑑(北隆館)によると、「日本名『東白銀草』は東国に生えるシロカネソウの一種の意」。特に秋田県から福井県にかけての日本海側の多雪地帯、県内では奥信濃や小谷村など北部に分布する日本固有種という。

 山地の落葉広葉樹林内のやや湿った場所や渓谷に生育する多年草。高さ10~25センチで、茎葉は下部では少しずれ、上部では対生する。5月から6月、茎先端に数個の淡い黄緑色の径1センチ弱の花を半開状に斜め下向きに付ける。花弁状のがく片は5枚、外側の付け根部分と上部の1枚は紫色を帯び、ツートンカラーが魅力的だ。

 同じキンポウゲ科に、属は別だが似た名前の「チチブシロカネソウ」がある。埼玉県秩父市で発見されたことから和名があり、花は純白。筆者は11年前、佐久穂町と小海町境の茂来山(もらいさん)(1717・7メートル)の登山道脇で撮影したことがある。県内の分布は東部、中部、南部にわたり、アズマシロカネソウと分布範囲が異なる点が興味深い。

 いずれも清楚(せいそ)な花ゆえに「採集や環境変化、踏み付けなどで減少が危惧」とし、県版レッドリストでは準絶滅危惧種にランクされている。

(2020年6月27日掲載)

写真=ほぼ垂直の岩壁の草付きに、ツートンカラーの花を咲かせたアズマシロカネソウ=奥信濃で5月撮影
 
北信濃の動植物