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2020年6月13日 番外編 カーポートの屋根下に/ピジョンミルクを与え/飛翔の練習

 「デデッポポー、デデッポポー」の鳴き声でおなじみのキジバトが5月、わが家(長野市石渡)の一角に巣を作り、子育てをする経過をカメラに収めることができた。巣の発見から、ひなの巣立ちまで20日間弱。以下はその観察日記である。

 5月7日。カーポートの屋根下。つり下げ式の物置の端に置いてあった縦30センチ×横20センチほどのプラスチック製かごの中で、小枝の上に鳥の尾がはみ出しているのに気が付いた。

 日中も夜間もほぼ同じ姿勢のままであることから抱卵中と確信する。

 11日。鳥がかごの中の何かの面倒を見ているようなしぐさをしている。かごの側面の隙間からもわずかに動く2羽のひなを確認。小さな命の誕生だ。

 かごは、下から見上げる位置にあるため、ふ化したひなを見ることも撮影することもできない。そこで、翌12日、親鳥が初めて巣から離れたタイミングを見計らい、リモコン撮影のカメラをセットした。

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 キジバトは元々ヤマバトとも呼ばれ、全国どこにでもいる(北海道は夏鳥)在来の留鳥。善光寺や長野駅前辺りに集団でいる外来のドバトよりひと回り小さく、つがいでいることが多く、警戒心の強い鳥だ。

 1960年代から生息域を本来の山野から都市部に広げてきたという。学生時代からキジバトの研究で知られる大阪市立自然史博物館学芸員の和田岳さんによると、さらに「80年ごろから人工の建築物にも巣を作る傾向が強くなった」。クーラーの室外機や天井の配管の上などでの観察例がある。今回の事例について「棚状で天井に近い位置であり、人工建造物で営巣する際に選びそうな場所」と和田さん。

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 14日。親鳥が、ピジョンミルクをひなに与えるシーンをカメラにとらえることができた。ピジョンミルクとは、はと乳の意味。体内のそ嚢(のう)で作られ、親鳥はひなに口移しで与える。ミルクは栄養に富み、ひなの成長に大きく寄与し、その後の複数回の繁殖に大きく影響すると見られている。

 親鳥は、うずくまった小さなひなを「ご飯だよ」と促すようにつつく。気づいたひなは、親のくちばしの脇から自分のくちばしを挿入し、ミルクを無心に吸う。ミルクを吐き出すためなのか、親鳥は体を上下に何度も繰り返し動かした。その間およそ10分ほど。

 1週間ほどたつと、徐々に親鳥は巣にいることが少なくなり、夜間も帰ってこなくなった。ミルクを与える回数は1日に2、3回ほど。ひなの成長につれ徐々に減る感じだ。ひなはみるみる大きくなり、羽が生えそろってきた。

 22日ごろからひなの動きが活発に。羽繕いをし、羽をばたつかせて飛翔の練習。巣立ち間近を感じさせる。

 23日。しばらく餌やりに来なかった親鳥が久々に飛来。親並みに大きく成長したひな2羽と親の計3羽で小さな巣はいっぱいだ。

 「巣立ちはふ化後15日ほど」との教科書通り、25日早朝、ひなは元気に巣から飛び立った。一気に遠くへは飛べず、数メートルずつ小屋根やフェンス伝いにたどたどしく移動し、やがて葉の茂る庭木の中へ。

 多くの天敵が待つ過酷な自然界にデビューするひなたちの無事を祈った。
(2020年6月13日掲載)


5月11日=カーポート屋根下のかごに営巣するキジバト。5月7日の発見から4日後、ひながふ化し、体を浮かす親鳥の姿が見えた

14日=親鳥のくちばしからピジョンミルクを吸う産毛のひな

19日=ふ化から1週間。羽が生えそろってきたひな

21日=巣のかごが狭くなるほど、ひなが成長してきた

23日=羽繕いに余念がない。巣立ち間近か

24日=親鳥が久々に帰ってきた。喜んで羽をばたつかせているように見える

25日=巣立ち後、庭木の葉陰に身を隠して休むキジバト
 
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