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57 松本市 ~豊富な地下水が潤す城下町

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 松本は平安時代に国府が、中世には守護の館が置かれ、信濃の中心だった。江戸時代は松本藩の城下町として都市化した。

 その中心は国宝の松本城。5重6階の天守は現存するものでは日本最古で、豊臣秀吉の時代の1593年ごろに造られたとされる。黒い下見板張りの造りは鉄砲戦を想定したものという。

 近世の城は多くが明治の初めに取り壊された。松本城もいったんは民間に払い下げられたが、後に県議となる市川量造がここを借りて5回の博覧会を開き、その売り上げで城を買い戻し、破却を免れた。

 おかげで私たちは今、400年以上前の天守に入ることができる。今年は新型コロナウイルスの影響で3月から入場できなかったが、6月6日から再び登れるようになった。

 松本は交通の要衝でもある。洗馬(塩尻市)から篠ノ井に至る善光寺街道が松本城の近くを通った。城の400メートルほど南の中央2丁目からは、西に飛騨高山へ抜ける野麦街道、北へ大町を経て糸魚川へ至る千国(ちくに)街道が分かれている。

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 この辺りには信毎メディアガーデンや松本パルコなどがあり、おしゃれな店も多い。街道の分岐点にはそれぞれ高さ1メートルほどの黒みかげ石の標柱が立っているが、洗練された街並みに埋もれて見落としそうになってしまった。

 旧善光寺街道の中町通りは、市内観光の目玉とされるエリア。白壁と黒なまこの土蔵造りの店が並ぶが、古さや懐かしさよりも、洗練され、しゃれた印象を与える。観光客を目当てに、新しい店が次々にオープンしているようだ。

 中町通りを一歩外れると、細い路地が入り組み、水路をきれいな水が流れている。水路をたどると「源智の井戸」があった。

 木を組んだ六角形の井筒から水が流れ出ている。自転車の若者やバイクに空のペットボトルを積んだ女性が水をくんでいく。ここは中世からあった井戸で、歴代領主も保護した名水。飲んでみると、軟らかくて甘い。

 松本市街地は地下水が豊かで、井戸や湧き水が至る所にある。美ケ原などに降った雨が湧き出てくるらしい。市もここ15年ほどで、市街地の各所にある井戸を整備してきた。環境省の「平成の名水百選」に「まつもと城下町湧水群」として認定を受けている。

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 女鳥羽川のほとり近くにある善哉(よいかな)酒造は、店先にこんこんと湧く「女鳥羽の泉」の水で清酒を仕込んでいる。フレンドリーな奥さんの勧めで買って帰った酒はやはり、軟らかくて甘かった。
(竹内大介)
(おわり)
(2020年6月13日掲載)

写真上=白壁の建物が並び、観光客が多い中町通り
写真下=町の人が水をくみに来る源智の井戸
 
小さな日帰り旅