
がんの治療中には、体にさまざまな副作用が現れます。口の中も例外ではありません。副作用のためにがん治療を一時的に中断する場合もあるほどです。がんの治療中に適切な口腔(こうくう)ケアを行うことの大切さを紹介します。
口腔内への影響
がんの治療方法は (1)手術 (2)薬物療法(抗がん剤治療など) (3)放射線治療―の三つがあります。
(1)の手術の場合は、特に消化器や呼吸器の手術を行った後で、口の中から流れてきた細菌が縫合部(手術の切開部)に付着することで、炎症を起こし、傷の治りが悪くなってしまうことがあります。
(2)の特に抗がん剤治療を行う際には、副作用として口腔内が荒れる「口腔粘膜炎」になることがあります。これに対しては事前に専門的な口腔ケアを施すことで悪化を防ぎ、抗がん剤治療の中断を減少させることができます。
抗がん剤治療の副作用には、吐き気や口腔内の乾燥もあります。治療前のように歯磨きができないために、虫歯や歯周病の症状が悪化したり、新たに発症したりすることもあります。患者さん個々の副作用の出現状態に応じたセルフケアが重要です。
頭頸部がんなどの治療では、(3)の放射線治療中に口腔粘膜炎の症状が強く現れることがあります。食事や会話が困難になることもあり、改善までには抗がん剤治療の場合より長い期間を要します。
放射線を直接照射した部分の顎の骨は血流が低下するため、骨髄炎などになる恐れもあります。そのため治療後は抜歯することができない場合があります。
さらに、放射線治療後は口腔内が乾燥し、虫歯になりやすくなります。
多くの患者にケア
長野市民病院では、2012年から全てのがん疾患の薬物療法の前に専門的口腔ケアを行うようになりました。13年からは消化器がん、17年からは呼吸器がんの患者さんに対し、治療の一環として手術前から専門的な口腔ケアを行っています。ケアを受ける患者さんの年間延べ人数は初診で約600人、再診で4000人に上ります。
食べる、話す、呼吸をする―健康な人がごく普通に行っている日常動作が、がんの治療中は難しくなることがあります。口の中のトラブルを未然に防ぎ、症状を軽くするために、がん周術期の口腔ケアは重要なのです。
宮澤 浩恵=歯科・歯科口腔外科主任(歯科衛生士)
(2020年7月25日掲載)