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28 音楽番組「Mの黙示録」 ~期待できる歌手取り上げ 音楽評論のコーナー作る

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 1997年当時、「速報!歌の大辞テン!」(日本テレビ)「うたばん」(TBS)「HEY!HEY!HEY!」(フジテレビ)など音楽番組らしきものはありましたが、いずれも帯に短し(襷)(たすき)に長し、といったところでした。それなりにコンセプトはありましたが、正しい音楽番組という観点から見れば、いずれもずれているとしか思えませんでした。

 音楽番組は音楽が好きで「志」を持った人に作ってほしい。音楽をひとつのネタとしか考えられないような人には音楽番組を作る資格などありません。音楽やアーティストに対するリスペクトの念を持っていること、これは常識です。

 もしも私が音楽番組を作るなら、ニュースの報道番組のような、きちっと検証もできて、評論もできるものを作りたい。キャスターがいてコメンテーターがいるような、まじめな音楽報道番組です。音楽番組に「ニュースステーション」「ニュース23」「朝まで生テレビ」があったっていいじゃないか! 理想の音楽番組があるべきだ、という評論としてのテーマは、次第に音楽番組を作りたいという思いに変わっていきました。

 そして、その思いが情熱となって、私に「評論の実践」へもう一歩踏み込ませることになりました。「JAPANESE DREAM」というラジオ番組を作らせたように、今度はテレビの音楽番組を作らせることになるのです。

 2000年4月に「Mの黙示録」(テレビ朝日)を立ち上げました。テレビは売れているアーティストしか取り上げない。だったら売れていなくてもこれから期待のできるアーティストを取り上げようと「NEXT BREAK ARTIST」コーナーを作りました。テレビの音楽番組にはまともな「音楽評論」は皆無です。だったら、はっきりものを言おうと「音楽評論」のコーナーを作りました。

 「Mの黙示録」は手前みそながら他の音楽情報番組とは似て非なるものでした。どこが違うのかといいますと、私が音楽評論家の立場でコメンテーターとして「評論」していることです。他の番組がただ情報をたれ流しているのに対して「Mの黙示録」では、かなりジャーナリスティックな視点で音楽そのものを取り上げています。評論を入れるというのが、この番組の「ポリシー」であり、いい歌を本当に理解してほしい、売れてほしいというのが「志」です。

 「NEXT BREAK ARTIST」と「音楽評論」という硬派な二本柱の「理念」に華を添えて、楽しく見られる番組にしてくれたのが中沢裕子さん、松浦亜弥さんという女性司会陣です。彼女たちの存在がなかったら、「Mの黙示録」は単なる風変わりな音楽番組で終わっていたかもしれません。だが、ツー・クール(6カ月間)の予定が、結果的に4年半もの長寿番組となりえたのは、「NEXT」「音楽評論」という「理念」がたくさんの視聴者に支持されたということでしょう。

 2000年から02年にかけて私は多忙の極みにいました。「JAPANESE DREAM」「音楽通信」「Mの黙示録」という3本のテレビ・ラジオ番組を掛け持ちしていたからです。加えて、書き手としてもかなりの数の連載物をかかえていました。そんな訳で多忙ではありましたが充実もしていました。なぜならば、いい曲は売れてあたりまえ、いいアーティストは売れてあたりまえ、という理想のミュージック・シーンを創造するための効果的な「武器」をようやく持つことができたからです。後は自信を持ってやり遂げるだけでした。
(2020年7月11日掲載)


写真=「Mの黙示録」から生まれた単行本
 
富沢一誠さん