
飯縄山麓の、棚田や集落が点在する長野市芋井の農業用ため池「軍足(ぐんだり)池」。満面と水をたたえた池を囲む水路の一角にイヌタヌキモが真夏の日差しを浴び、黄色の径1センチほどの小さな花を咲かせていた。
一方、同山麓の高原の湿地。ホザキノミミカキグサとムラサキミミカキグサが開花中と聞き、友人の案内で探索。高さ10センチ足らずの細い茎、目を凝らさないと見逃しそうなミリ単位の極小の花を付けた2種が仲良く群生していた。
いずれもタヌキモ科タヌキモ属。ムシトリスミレ属とともに食虫植物として知られる。
同科は世界的には3属300種ほど、国内にある2属15種のうち県内には9種が確認されている(長野県植物目録、2017年)。
タヌキモ属はタヌキモ類とミミカキグサ類に分類。タヌキモ類は池や沼に生育し、根がない浮遊植物。水中の茎や葉にある捕虫嚢でミジンコなどの動物性プランクトンを餌に養分を摂取する。湿地に生育するミミカキグサ類は、捕虫嚢は泥の中の地下茎にあり、土中の微小生物を取る。ともに6月から10月にかけ、水上や地上に茎を伸ばし、花を付けるが、サイズは数ミリから1センチほどと極小だ。
「イヌタヌキモは、北信では大座法師池や小鳥ケ池のほか、水田脇の止水水路にも生育する」と戸隠地質化石博物館の植物担当専門員の中村千賀さん。軍足池には10年ほど前から植物観察会などで足を運ぶが、「水質の悪化か、生息範囲、数量ともに減ってきている」という。
いずれも生育地が限られ、水質汚濁や開発などで絶滅が懸念。県版レッドリストでは、イヌタヌキモが準絶滅危惧種、ホザキノミミカキグサは絶滅危惧ⅠB類、ムラサキミミカキグサはⅡ類にランクしている希少種だ。
(2020年8月29日掲載)
写真上=黄色の花のイヌタヌキモ=軍足池で8月4日撮影
写真中=4ミリほどの薄い青色のホザキノミミカキグサの花=飯綱高原で8月17日撮影
写真下=2ミリほどの淡い紫色のムラサキミミカキグサの花=同上