
8月初旬、前回掲載した「イヌタヌキモ」の撮影を終え、長野市芋井の農業用ため池、軍足(ぐんだり)池のほとりで休んでいたところ、9年ぶりにチョウトンボに出合った。それから間もなくして飯綱高原の大池でも。広範囲にわたり、縄張り飛翔や、2、3匹の追いかけっこ、交尾、産卵などを確認できた。
体長4センチほど、広げた羽は約8センチ。南方系のトンボで、低地から山地の水生植物の豊かな池や沼などに生息する。後ろの羽が幅広で形態や飛び方が似ていることから和名に「チョウ」が付いている。「江戸時代の『蜻蛉(かげろう)譜』以来の由緒あるよび名」と、「原色日本トンボ幼虫・成虫大図鑑」(北海道大学出版)にある。独特の濃紺の羽は、太陽光線の当たり具合、角度により金属色に輝いて見える。
長野県内では1990年代までは珍しかったが、99年に東信で大発生し、その後各地に分布を広げた。
北信は信濃町の1カ所のみだったが、信州昆虫学会員でトンボ研究30年余の元校長小笠原幹夫さん(64)=松代町=が2001年、金井池(松代町)や川中島古戦場史跡公園(小島田町)、田子池(若槻)など各地で確認、記録した。特に「田子池では数十匹が舞い、すごかった」という。
小笠原さんは軍足池のトンボを05年から毎年欠かさず観察、記録している。県内で記録された95種のうち44種は確認できたが、チョウトンボはずっと未確認だった。しかし、16年9月、雌1匹を初めて確認、写真も撮った。その後2年間は確認できなかったが、昨年再確認、野帳には「多い」と記載した。
なぜ分布が拡大したのかはっきり分からないとしながら、「地球温暖化による影響や、池や沼に浮遊植物が繁茂するなど生息環境が整ったのでは」と推測。逆に都市化などで急に姿を消してしまうトンボでもあり、動向を注意深く見守っていきたいという。
(おわり)
(2020年9月5日掲載)
写真=後ろの羽がチョウに似たチョウトンボ。光線の当たり具合で輝いて見える=軍足池で8月4日撮影