
山々の紅葉が始まった10月中旬、群馬・新潟県境の谷川岳(1977メートル)へ向かった。
遭難死者数が世界一で「魔の山」と恐れられてきた谷川岳は10年ほど前、ロープウエーを利用し天神尾根から山頂(オキノ耳)まで登ったことがある。
今回は、その時見られなかった一ノ倉沢、マチガ沢、幽ノ沢などの岩壁を見るのが目的だ。ロッククライミングのメッカだが、ハイカー向けにも沢巡りコースが整備されている。
6時前に山仲間4人で長野市内を出発。飯山経由で新潟県に入り、十日町市から南魚沼市へ。湯沢町からは関越道を利用し、群馬県境の関越トンネルを抜け、水上インターで降車。水上温泉を通って谷川岳の玄関口・土合に。
入り口には遭難者慰霊塔があり、傍らにある横長の銘板には800人以上もの死者の名前が刻まれている。
その先のロープウエー駅舎内の駐車場に車を置く。すぐ上の山岳資料館で地図をもらい、9時半過ぎに歩き始める。

間もなく山頂へ通じる西黒尾根の登山口に。「初心者厳禁」の張り紙を見ると、山頂までは8時間余。体力不足による遭難が多発している、とある。
明るいブナ林の中の快適な道をマチガ沢へ向かう。この道は明治初年に開削された、上州と越後を結ぶ清水街道の旧道だ。下方の湯桧曽川(ゆびそがわ)沿いに新道が通っている。
パッと開けたマチガ沢の岩壁は紅葉が映えて美しい。出合(であい)には昔、3軒ほど宿があり、越後から清水峠を越えて夕暮れ時にやってきた旅人が、町の灯火と間違えたのが名前の由来という。ここからは先で西黒尾根と合流する巌剛(がんごう)新道が延びる。
さらに進むと一ノ倉沢の出合に。目の前に大岩壁が迫る。この地方では岩壁を「クラ」と呼び、谷川岳随一の岩場であることが「一ノ倉」の由来だ。
世界で最も登攀(とうはん)が困難な岩壁の一つとされ、剣岳の岩峰、穂高の滝谷とともに「日本3大岩場」といわれる。中央右手にそびえる衝立岩は途中でビバークし、登りきるのに2日かかるという。

河原で昼食を取った後、幽ノ沢へ。道路脇には、岩盤にはめ込まれた遭難者の銘板が目に付く。中には真新しい花を供えた銘板も。
幽ノ沢でも別の岩壁を見た後、芝倉沢の手前から新道に下る。急傾斜のうえガラガラ道に閉口する。下りきった所にあるJRの巡視小屋で一休みし、今度は新道を川下へ向かう。
この道は、昔は人力車や荷馬車も通ったというが、今その面影はない。途中からマチガ沢近くの旧道へ上り、旧道を下りきった後、山岳資料館を見学した。帰路は水上から沼田まで関越道を利用。沼田からは長野原町を経て上田へ。菅平越えで須坂に出て、帰宅したのは19時を回っていた。
(横前公行)
(2020年11月7日号掲載)

写真上=多くの遭難者を出した一ノ倉沢の大岩壁
写真中=一ノ倉沢の出合を詰める登山者
写真下=花が供えられた慰霊者の銘板