
里山の紅葉が見頃となった11月上旬、小谷村の塩の道・大網(おあみ)峠(840メートル)を往復した。松本と糸魚川を結ぶ千国(ちくに)街道の最大の難所。峠直下のブナの美林の黄葉に目を見張った。
山仲間3人で7時に長野市内を出発。五輪道路を走り、小川村から白馬村を抜け、国道148号で小谷村の先へ。いったん新潟県に入り、大糸線平岩駅の近くから姫川温泉を通り、県最北端の大網集落に。
入り口の大網諏訪神社で道中の安全を祈願。旧大網分校裏手の広場に車を置き、近くの芝原の石仏群を見に行く。赤い前掛けをした六地蔵が愛らしい。
9時過ぎに歩き始める。間もなく道は下りになり、沢が入り込んで石だらけに。その先で林道と合流し、大きな砂防堰堤を過ぎると横川のつり橋に。
ここは千国街道で唯一のつり橋という。長さは20メートルほどだが、沢底からの高さは数十メートル。今は鉄のワイヤでつられているが、昔は藤蔓製だったという。下を見ると、淵に大きなイワナが。
そこから次第に急坂となり、道幅も狭まる。街道とは名ばかりの山道だ。かつてはここを、塩の入った重いかますを背にした牛が通り、塩ブリを担いだ歩荷(ぼっか)が歩いたことを思うと大変な行程だ。

間もなく小さな滝が現れる。その上の沢を渡ると、底の岩に幾つかくぼみが彫られている。水をためて飲みやすくした「牛の水飲み場」だ。
急な斜面をさらに登って行くと、大きな杉の木の根元に風化した石仏が一体。標柱には「菊の花地蔵」と記されていた。
道の両側にブナの木が多くなり、標高が増すにつれ黄葉が濃くなる。茶屋跡や屋敷跡を通り、峠が近くなると一面、目の覚めるようなブナの美林だ。秋もいいが、新緑の時季も素晴らしいだろう。
この辺から道は「うとう」と呼ばれるU字形の地形に。牛のひずめや歩荷のわらじが土の道をこねて歩き、その跡を何度も雨水が流れて削られたという。
2時間半ほどかかってたどり着いた大網峠は小広い広場に。かつてはここに歩荷宿や茶屋、荷物の中継ぎ小屋もあったとか。横倒しの木に腰を掛け、昼食を取りながら往時の往還に思いをはせた。
ここが信越境と思っていたところ、県境はさらに下方の角間池の先。せっかくだから足を延ばした。池の周辺からは海谷山塊(うみたにさんかい)の頸城駒ケ岳や鬼面山(おにがつらやま)、鋸岳)(だけ)などが望め、紅葉のカエデ越しに雨飾山も拝むことができた。

帰路は同じ道をたどり、姫川温泉に立ち寄ることもなく、真っすぐ長野へ。途中、長野市七二会で渋滞に巻き込まれたが、18時過ぎには帰宅できた。
(2020年11月28日掲載)
写真上=峠直下の目の覚めるようなブナの美林の黄葉。道は「うとう」に
下=角間池の近くから望む紅葉越しの雨飾山