
甲状腺がんは、喉仏の下にある甲状腺にできるがんで、全てのがんの1%程度を占めています。主に4種類に分類されます。
多くが「乳頭がん」
約90%と圧倒的多数を占めるのが、乳頭がんです。進行が非常にゆっくりなのが特徴です。最初から悪性度が高いものと低いものに分かれ、悪性度が低いものは適切に対応すれば97%以上治癒するとされます。当科でもこの3年間で60例の甲状腺がんの新患があり、51例が乳頭がんでした。
2番目に多いのは濾胞(ろほう)がんで、甲状腺がんの5%程度を占めます。一部の良性の甲状腺腫瘍との区別が難しいという課題があります。
このほか、髄様(ずいよう)がんと未分化がんと呼ばれるタイプがそれぞれ1~2%程度見られます。これらは進行が速く、独特な経過をたどるため、治りにくいがんです。
甲状腺がんは自覚症状が少なく、健診やほかの疾患の頸部検査などで疑われ、診断に至ることが多い病気です。
甲状腺がんの診断には超音波検査が最も有用ですが、周辺臓器への広がりや転移の状況を調べるにはコンピューター断層撮影(CT)やPET検査、そのほかアイソトープ検査も用います。
がんの診断を確定させるためには、超音波で位置を確認しながら細い針を刺し、細胞を抜き取って細胞診検査を行います。乳頭がんではこの検査で診断を確定できることが多いです。
手術は慎重に
甲状腺がんでは、放射線治療や抗がん剤治療は効果が乏しくてあまり行われず、治療は手術が中心です。ただ場合によって放射性ヨウ素を内服するアイソトープ治療や、分子標的薬を使った治療を行うことがあります。
甲状腺がんに効果が確認される薬剤は現在3種類ありますが、まだ治癒するまでの有効性はないと考えられています。
手術は、がんのある場所を切除したり、全摘出したりします。甲状腺の裏側には反回神経という発声や飲み込みに関連する神経が走っており、傷付けないよう慎重に手術する必要があります。やむをえず切断した場合は、神経を再建できる場合には再建して声帯の萎縮を予防したり、後日声を良くする喉頭枠組み手術を改めて実施したりして、後遺症が軽くなるようにします。
手術後の傷から出血することによる頸部の腫れにも注意する必要がありますが、落ち着けば傷は目立たず、違和感などの後遺症も少ない場合が多いです。
写真=横溝 道範=頭頸部外科部長=専門は頭頸部がんの診断・治療
(2021年1月16日号掲載)