愚行録 ~直木賞候補作が原作 複雑な心理ドラマに

tokimeki-170408p.jpg
 愚行とは考えの足りない愚かな行いのこと。「愚行録」は第135回直木賞候補に挙がった貫井徳郎の傑作ミステリーの映画化だ。

 エリートサラリーマンの夫と美しく優しい妻とかわいい一人娘という誰もがうらやむような幸せな一家3人が惨殺されてから1年。犯人が捕まらないまま、事件は迷宮入りしようとしていた。

 週刊誌記者の田中(妻夫木聡)は、過酷な家庭環境で共に育った妹の光子(満島ひかり)がある事件で逮捕されるという心配事を抱えながら、未解決事件の真相を求めて、関係者への取材にのめり込む。

 被害者の夫、田向浩樹(小出恵介)の同僚やかつての恋人。妻友希恵の大学時代の同期や友人たち。ところが田中のインタビューに答える彼らの証言によって、夫婦の印象はオセロのように表と裏が入れ替わり、完璧に見えた夫婦の意外な実像があぶり出されていく。

 最初は褒めながら「でもね」と他人の欠点をあげつらう。羨望(せんぼう)と嫉妬が生み出す醜悪な感情が、その人物の本性をさらけだす。登場人物たちが次第に本音を吐き始める姿に、人間の身勝手さと愚かさを見せつけられるようだ。無意識に発した言葉や行動が相手の心を傷つけ、蓄積された恨みが殺意へと変わっていく。

 田中の冷ややかな視線は、スクリーンを見つめる観客に、鋭い刃を突き付ける。知らず知らずのうちに愚行を行っているかもしれない恐ろしさに、背筋が凍りつくようだ。

 原作者が「映像化は不可能」と言った複雑な人間関係が、薄紙をはぐように明らかにされる展開の面白さ。原作の世界観が見事に映像化され、犯人捜しのミステリーでありながら、複雑な心理ドラマとしても見応え十分だ。

 「悪人」(2010年)、「ミュージアム」(16年)などで悪役もこなした妻夫木聡は、心の闇を持つ青年役を、すごみさえ感じる演技で圧倒する。

 ロマン・ポランスキー監督を輩出したポーランド国立映画大学で学んだ石川慶監督は、ポーランド人のピオトル・ニエミイスキを撮影監督に起用。映像美と質感も見どころだ。
=120分
(2017年4月8日号掲載)

=写真=(C)2017「愚行録」製作委員会

最近の記事

美女と野獣 ~実写版での映画化 躍動感とぬくもり~
 美しく傲慢(ごうまん)な王子が魔女の怒…
愚行録 ~直木賞候補作が原作 複雑な心理ドラマに
 愚行とは考えの足りない愚かな行いのこと…
パッセンジャー ~極限の中で闘う男女 SF版タイタニック~
 広大な宇宙で究極の選択を迫られたとき、…