ハナレイ・ベイ ~原作は村上春樹作品 文学を映像で味わう

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(C)2018『ハナレイ・ベイ』製作委員会

 村上春樹原作の「ハナレイ・ベイ」は2005年に発表された「東京奇譚集」の連作短編小説の一つ。「ノルウェイの森」以来、村上作品の映画化2作目だ。

 ピアノバーを経営しながら一人息子のタカシ(佐野玲於)を育ててきたシングルマザーのサチ(吉田羊)に突然、息子の訃報が届く。ハワイのカウアイ島でサーフィン中にサメに襲われ、右脚を食いちぎられて亡くなったという。

 遺骨を胸に日本に帰る途中、ハナレイ・ベイに立ち寄ったサチは、海辺の大きな木の下で読書をして過ごす。以来、命日の時期になると、同じ場所を訪れ読書をしていた。10年目のある日、偶然知り合った若い2人の日本人サーファーから、片脚の日本人サーファーの存在を聞かされ、激しく動揺する。

 文学を映像で味わう楽しみ。この作品にはそんな出合いがあるが、そこには確かな力量が試される。文庫本のわずか42ページの短編に凝縮された濃密な時間。脚本も手掛けた松永太司監督は、予算の都合でオアフ島での撮影を提案されていたが、作者が大切にしているハナレイ・ベイで撮影する意思を貫いたという。

 変わらない日常を、突然奪われたサチを演じた吉田羊も、母親としての複雑な感情を、せりふを超えたこれまでにない表情で見せつける。息子の死に直面しても冷静さを装い、淡々と乗り越えたかのように見えるサチの内面と苦悩が吐露される。

 およそ500万年前、ハワイ諸島で最初にできた最北端のカウアイ島は、魂が目覚めるスピリチュアルな癒やしの島として知られ,神聖な伝説も多いという。ハワイ語で三日月を意味するハナレイ・ベイは、世界有数のサーフスポットで、多くのサーファーが訪れる。日本人青年の三宅をプロサーファーの佐藤魁が演じて、華麗な技を披露している。

 「ジャップ」と蔑称を口にし、「パールハーバーを忘れるな」と怒りをあらわにするアメリカ人が登場する。命を奪い合う戦争の記憶、人間を不幸にする現実が突きつけられる一瞬だ。

 余談だが、ミュージカル映画「南太平洋」のロケ地としても有名な島である。
=1時間46分
(2018年10月13日掲載)

(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野ロキシー((電)232・3016)で10月19日(金)から公開

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