長いお別れ ~認知症に寄り添う 体験小説を映画化

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(C)2019『長いお別れ』製作委員会 (C)中島京子/文藝春秋

 直木賞作家の中島京子さんが、認知症の父親と暮らした自身の体験をもとに書き上げた「長いお別れ」。第5回日本医療小説大賞を受賞したこの小説にほれ込んで、「湯を沸かすほどの熱い愛」(2016年)で日本アカデミー賞を受賞した中野量太監督が、脚本も手掛けて映画化した。

 70歳を迎えた父昇平(山崎努)の誕生日。母曜子(松原智恵子)に招集され、夫の転勤で息子と共にアメリカで暮らしている長女の麻里(竹内結子)、フードコーディネーターでカフェを開く夢とうまくいかない恋人との関係に悩む次女の芙美(蒼井優)が、東家に顔をそろえた。

 姉妹に母が告げたのは、昇平の認知症発症だった。老夫婦だけではままならない自宅介護の現状に、それまで親から離れていた娘たちも向き合わざるを得なくなる。

 徐々に進行する認知症のため、ゆっくりと確実に壊れていく日常。中学校長を務め上げた教育者としての厳格な表情から一転。不安げな途方に暮れた顔に変わる。かと思えば、穏やかな父親に戻る。過去の記憶の中にさまよう姿が切ない。微妙な変化を演じ分ける山崎努の名演に圧倒される。

 小さな出来事を丁寧に紡いで、家族たちの7年間が描かれていく。何かをきっかけに急変する言動に振り回されながらも、昇平に寄せる家族の愛情にほろっとさせられる。

 記憶の混乱でかみ合わない会話やすれ違いが生み出すおかしさ。つらいだけでなく、ユーモアを込めたエピソードに、ついつい笑いながらも、人生へのいとおしさと寂しさがにじみ出る。原作の世界観を体現する女優たちの繊細な演技も実に素晴らしい。

 認知症を患い少しずつ記憶を失い、ゆっくり人生から遠ざかっていく様子から、アメリカでは「ロング グッドバイ(長いお別れ)」と表現するという。

 高齢化が進み長寿社会となった日本では、認知症が人ごとではなくなった。もし家族が、そして自分が発症したらどう向き合うのか。いつかは訪れる永遠の別れのその日まで、優しい絆に寄り添いたくなる家族の物語だ。
=2時間7分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
 長野グランドシネマズ((電)233・3415)で5月31日(金)から公開
(2019年5月25日掲載)

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