この世界の(さらにいくつもの)片隅に ~前作の隙間埋める 秘密が明かされて

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(C)2019こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

 こうの史代原作の漫画をアニメ映画化した「この世界の片隅に」は2016年に公開後、ロングランヒットし、キネマ旬報の日本映画ベストテン1位、日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞など高い評価を受けた。新たにいくつものエピソードを加えた新作が「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」だ。

 昭和19年2月。絵を描くことが大好きな18歳のすずに突然縁談が持ち上がり、広島から呉に嫁ぐことになった。相手は海軍勤務の文官、北条周作。そのころの日本は戦争の真っただ中で、戦況の悪化で配給物資も乏しく日々の暮らしは困窮してゆく。明るくおっとりとした性格のすずは、食事や衣服など工夫を凝らして毎日の暮らしを乗り越えてゆく。

 どんなに苦しくても人は命ある限り生きていかなければならない。第2次世界大戦が舞台でありながら、戦闘ではなく人々の日常を丁寧に描くことで、平凡に暮らせること、平和であることの幸せを強く訴えかけてくる。

 戦争が人々から奪うものの大きさ。軍港である呉は激しい空爆が続き、故郷の広島には原爆が落とされ、すずの大切なものが次々と奪われてゆく。どんな時も耐えていたすずが、憎しみと怒りをあらわにする瞬間だ。

 何故、周作がすずと結婚したのか。次第に明かされてゆく秘密に、前作の隙間が埋められて物語のもう一つの側面が見えてくる。

 すずの女性としての愛と成長を描くエピソードが遊郭の娘リンとの出会いだ。同じ年頃でありながら、苦界に身を置くリンは大人びた表情を持つ美しい女性だ。リンがすずに語り掛ける。「この世界にそうそう居場所はなくなりゃせんよ」。どこにでも居場所はある、どこでも芽は出せると。

 ヒロインすずの声を演じるのは前作と同じ「のん」。失敗しても「あちゃ~」と照れる姿がなんともかわいく、ほのぼのとした声に癒やされる。競うのではなく、相手を潔く認める素直さが、この争いの多い生きにくい現代にも大切だと改めて教えてくれる。

 心にしみるささやかな時間がゆったりと過ぎてゆく。
=2時間40分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野グランドシネマズ((電)233・3415)で12月27日(金)から公開
(2019年12月21日掲載)

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