アンティークの祝祭 ~たたずまいが語る ドヌーブの存在感

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(C)Les Films du Poisson- France 2 Cinema- Uccelli Production - Pictanovo

 ある日突然に死を意識し「終活」という言葉が頭をよぎる。死を予感した孤独な老女が、人生を手放すかのように身の回りの物を処分する決断をする。「アンティークの祝祭」は、人生最晩年の一日を凝縮させた人間ドラマだ。

 大邸宅で一人暮らしのクレール(カトリーヌ・ドヌーブ)は、長年コレクションしてきた美術品や家具を庭に並べ、売り始めた。見事なアンティークの大安売りに大勢の人々が詰め掛けにぎわう。疎遠になっていた娘のマリー(キアラ・マストロヤンニ)は母親の奇行を知らされ、20年ぶりに故郷に駆けつける。

 大女優に、女神(ミューズ)や宝石という賛辞が贈られるが、ドヌーブこそ「フランスの至宝」という言葉にふさわしい。若き日のかれんさと類いまれな美貌からトップスターとして君臨し、今年77歳を迎え、いぶし銀ではなくダイヤモンドのように燦(さん)然と輝き続ける。年齢を重ねた貫禄さえ味方につける大女優だと心底思う。

 ジュリー・ベルトゥチェリ監督の要望で初めて白髪姿を披露している。アンニュイなまなざしでたばこをくゆらす、このたたずまいだけで何かを物語る存在感に圧倒される。

 認知症になりかけた老婦人のおぼろげな過去の記憶をよみがえらすのは愛するアンティークたちだ。これまで家の中でだけ飾られていた肖像画やからくり人形が魂を宿したかのように、クレールに寄り添う。彼女の人生と共にひっそりと過ぎてきた時間から解放され、明るい太陽の下で大勢の人間に見詰められる。もう一人の主役といえるアンティークたちの、祝祭の時なのだ。

 クレールと同じように物を集めるのが趣味というベルトゥチェリ監督自身のコレクションも登場している。スクリーンに映し出される素晴らしいアンティークの数々は眼福のひとときを与えてくれる。

 ある事件から疎遠になっていた母娘の再会がもたらす人生の意外な結末。かつてドヌーブとパートナーだったマルチェロ・マストロヤンニとの間に生まれた実の娘、キアラとの母娘共演も話題だ。
=1時間34分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
 長野千石劇場((電)226・7665)で公開中
(2020年7月11日掲載)

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