糸 ~名曲に着想を得た 胸打つ愛のドラマ

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(C)2020映画「糸」製作委員会

 シンガー・ソングライター中島みゆきの歌の世界観はドラマチックで、歌に込められた熱い思いが聴く人の心にさまざまな物語を紡ぎ出す。映画「糸」は、1998年にリリースされた名曲「糸」に着想を得て誕生したラブストーリー。北海道で巡り合った2人の愛の軌跡だ。

 平成元(1989)年生まれの漣(れん)(菅田将暉)と葵(あおい)(小松菜奈)が出会ったのは13歳の時。しかし、養父から虐待を受けていた葵は母親と転居し、2人は遠く離れ離れとなってしまう。8年後、2人がそれぞれ愛する人と人生を歩もうとし始めた頃、思いがけず再会するが、離れていた時間の重さを思い知らされるのだった。

 北海道では雄大な大地に足をつけて生きようとし、大都会・東京では雑踏にのみ込まれそうになる。逃避行先の沖縄、日本から飛び出し挑戦するシンガポール...。2人の生き方に寄り添うような表情を見せるロケーションが印象的だ。

 30年にわたる平成とはどんな時代だったのか。漣と葵の人生に重ねるように平成に起きた出来事が描かれる。東日本大震災、リーマンショック、天災や人災に翻弄されながらも立ち上がり支えあう人々の姿に、絆の大切さを気づかされる。子どもたちを地域で見守る活動の一つとして広がった「こども食堂」。主人公の漣と葵の2人の名前も、実は平成に多くつけられた人気の名前なのだそうだ。

 「縦の糸はあなた 横の糸は私」。細い1本の糸が織り上げる人生の奥深さを切々と伝える歌詞。巡り合うべき運命の糸である漣と葵の愛のドラマが胸を打つ。

 元号が令和になって出現した新型コロナウイルスによる社会の変容は想像を絶するものだった。まるで人間の精神力を試すかのように試練は続く。心が折れそうになりながらも、互いを思いやり乗り越える力を私たちは持っている。

 オープニングでスクリーンいっぱいに映し出されるのは夜空に輝く打ち上げ花火。今年、相次いで中止となった花火大会を、思いがけず映画の中で楽しませてもらった。
=2時間10分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
 長野グランドシネマズ((電)233・3415)で公開中
(2020年8月29日掲載)

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