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(C)2018 BOY WHO LTD / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE / PARTICIPANT MEDIA, LLC

 アフリカで最も貧しい国の一つと言われるマラウイ共和国。「風をつかまえた少年」は、14歳のウィリアムが知恵と勇気で村を救った奇跡の実話の映画化だ。

 2001年、理科が得意な少年ウィリアム(マックスウェル・シンバ)は、真新しい制服を着て、誇らしげな笑顔を見せていた。父トライウェル(キウェテル・イジョフォー)と母に見送られ中学に通い始めたのもつかの間、大干ばつで家の収入が途絶え、学費を払えないウィリアムは退学を余儀なくされる。諦められないウィリアムは図書館に忍び込んで独学で学び、一冊の本との出合いが運命を変えてゆく。

 捨てられた廃材の中から役に立ちそうなものを拾い組み立てる。それはもうゴミではなく形を変えた資源となる。その発想を生み出す知識の素晴らしさ。日本なら義務教育で誰でも教育を受けられるのに、学ぶ機会を奪う貧困の悲しさと怖さがある。

 もっと怖いのは目先の欲で金と引き換えに森を伐採し、むき出しとなった乾いた大地が人間に復讐するかのように、干ばつと洪水を繰り返す。さらに飢餓の脅威が人々の心をすさませ、略奪まで起きてしまう。今もアマゾンでは人間による森林破壊が原因で火災が続き、多くの熱帯雨林が失われ深刻な問題となっている。

 アカデミー賞作品賞を受賞した「それでも夜は明ける」(2013年)で、自由黒人から奴隷にされた音楽家を演じたキウェテル・イジョフォーが、父親役だけでなく監督・脚本も手掛けた。アフリカからの視点でリアルに描きたいとマラウイでの撮影を敢行している。

 無学で肉体労働を優先する父と息子の確執と絆。見守る母親のアフリカの大地のようなたくましさ。そんな女性たちのファッションも目を奪う。

 原作のノンフィクションは世界的ベストセラーとなり、独力で電気を起こす風車を作り、自家発電に成功したウィリアムは2013年タイム誌の「世界を変える30人」にも選ばれた。風だけでなく未来もつかんだ少年の希望は、私たち人類の希望でもある。

 文部科学省選定(少年・青年・成人・家庭向き)。
    =1時間53分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野ロキシー((電)232・3016)で公開中
(2019年9月14日号掲載)

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写真=「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」の一場面

 1969年8月9日、ハリウッドを震撼させる大事件が起きた。カルト集団マンソン・ファミリーによる、女優シャロン・テート惨殺事件だ。「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」はこの事件を題材に、クエンティン・タランティーノ監督が、レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピット初共演で描くエンターテインメント大作だ。

 落ち目のテレビ俳優リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)は映画への転身を目指すがうまく進まない。意気消沈するリックを慰めるのは長年リックのスタントマンで付き人を務める親友のクリフ(ブラッド・ピット)だ。クリフは偶然ヒッピーの女の子を車に乗せたことで、怪しげな共同生活を送る集団を目撃する。そしてリックの隣家にロマン・ポランスキー監督と女優のシャロン・テート(マーゴット・ロビー)夫妻が越してきた。刻々と運命の日が近づく。

 人気絶頂時代のリックが主役を務めたテレビ番組や、次第に悪役やゲストばかりという情けないシーンが次々と映し出される。活路を見いだそうとマカロニウエスタン出演のためイタリアに渡るのは、クリント・イーストウッドを思わせる。こんなあるあるエピソードのオンパレードと、ブルース・リーやスティーブ・マックイーンら、外見もそっくりのスターたちが登場し、映画ファンは発見する楽しさ倍増だ。

 レオさまとブラピ、演技はどちらも申し分なく素晴らしい。肉体的には、一回りも年上なのに、スタントマンらしく鍛えたボディーを惜しげもなく見せてくれるブラピに軍配を上げたくなる。ヒッピーたちとの大立ち回りのアクションも見どころだ。

 「昔々」で始まるタイトルもタランティーノ監督がファンだというセルジオ・レオーネ監督の遺作「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」と重なる。60年代のヒット曲を集めた音楽にファッション、車、映画も再現され、一つの時代を見事に切り取った。まさにハリウッドの古き良き時代にオマージュを捧げた、タランティーノ監督の映画愛に満ちた作品なのだ。
=2時間41分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野グランドシネマズ((電)233・3415)で公開中
(2019年8月31日号掲載)
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(C) 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved

 俳優・監督として数々の名作を世に出してきたロバート・レッドフォードが60余年の俳優人生に終止符をうち、最後の出演作に選んだのは「さらば愛しきアウトロー」。演じるのは、逮捕・投獄されるたびにまんまと脱獄した、伝説の銀行強盗フォレスト・タッカーだ。

 1981年、テキサス州。初老の紳士が銀行の窓口を訪れ、にこやかに現金を奪うと悠然と去っていった。追跡するパトカーも機転で逃げ切る男の名はフォレスト・タッカー(ロバート・レッドフォード)。事件を追うハント刑事(ケイシー・アフレック)は、タッカーの仕事の美学と流儀に魅せられてゆく。偶然出会ったジュエル(シシー・スペイセク)との穏やかな時間に癒やされるタッカーに捜査の手が迫って来る。

 原題は「老人と銃」だが、タッカーは空っぽの銃をちらつかせるだけで誰も傷つけることはなかった。15歳から犯罪を繰り返したタッカーの手配写真が映される。若き日の美青年、レッドフォードに見とれる瞬間だ。タッカーが犯罪人生を締めくくるための仕事で逮捕されたのが80歳。引退を決めたレッドフォードとほぼ同じ年齢になる。 

 レッドフォードのヒット作は数知れず。アメリカン・ニューシネマの名作「明日に向って撃て!」(1969年)で列車強盗、「スティング」(73年)では詐欺師のアウトローを演じた彼が、最後に銀行強盗を演じるとは面白い。シリアスからサスペンス、そして「追憶」(73年)、「愛と哀しみの果て」(85年)などラブロマンスでも、甘いだけではない大人の男を魅力的に演じてきた。

 初監督作品「普通の人々」(80年)ではアカデミー賞を受賞した。主宰しているサンダンス映画祭では若き才能の発掘と映画人の育成に貢献している。俳優としてだけでなく、映画界の将来と真剣に取り組む生き方が見事だ。

 デヴィッド・ロウリー監督は当時の雰囲気を出すため、最新のデジタル撮影ではなく70年代の映画製作と同じ16ミリフィルムで撮影することにこだわったそうだ。引退作にふさわしく共演者の顔ぶれも豪華だ。これまでの作品をほうふつとさせるシーンも登場してファンにはうれしい。
=1時間33分
長野ロキシー((電)232・3016)で9月6日(金)まで上映予定

(2019年8月24日掲載)
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(C)2017 Papillon Movie Finance LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 「パピヨン」はフランス語で蝶(ちょう)のこと。胸に入れた蝶の刺青(いれずみ)から「パピヨン」と呼ばれたフランスの作家アンリ・シャリエールの壮絶な実体験を基にした世界的ベストセラー小説が、名優スティーブ・マックイーンとダスティン・ホフマンの共演で映画化されたのは1973年。命をかけたスリリングな脱獄劇と、男たちの友情の物語が45年ぶりにリメークされた。

 金庫破りのアンリ・シャリエール(チャーリー・ハナム)は盗んだ宝石を着服したことがボスにばれ、報復として殺人犯のぬれぎぬをきせられてしまう。終身刑で送られた先は南米フランス領ギアナの刑務所。そこは、囚人を死ぬまで働かせる悪名高い流刑地だった。脱獄の資金づくりの協力者として、偽札造りの天才ドガ(ラミ・マレック)を仲間にし、アンリは脱獄計画を実行する。

 リメークの怖さは、どうしてもオリジナルと比較されてしまうこと。マイケル・ノアー監督は、原作小説と、「ハリウッドの赤狩り」に抵抗した脚本家ダルトン・トランボのオリジナル脚本を基にしながら、新たなエピソードも追加してパピヨンの世界観を描き出した。

 華やかなパリ。真新しい囚人服に身を包んだ男たちが輸送船へ行進する。一転して、孤島での過酷な強制労働と残酷な徒刑場の悪夢のような日々が、灼熱(しゃくねつ)の太陽の下で繰り返される。 

 13年の獄中生活でどんな目に遭おうと脱獄を繰り返すアンリが、罰として7年もの独房生活を耐え抜くシーンの凄さは名場面の一つだった。痩せ衰え狂気を漂わせながら、生に執着するスティーブ・マックイーンの鬼気迫る演技が忘れられないが、ハナムも本来の見事な肉体を大幅に減量して役にチャレンジしている。

 オスカー俳優のダスティン・ホフマンが演じたドガ役に挑んだラミ・マレックもまた、「ボヘミアン・ラプソディ」で今年のアカデミー賞主演男優賞を受賞し、オスカー俳優となったのも記憶に新しい。奇妙な友情と絆で結ばれた男たちを演ずる2人の演技も見どころだ。

 自由の世界を目指して、紺碧(こんぺき)の海にアンリの蝶は羽ばたく。

=2時間13分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野ロキシー((電)232・3016)で17日(土)から公開
(2019年8月10日掲載)
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(C)2019「新聞記者」フィルムパートナーズ

 実際の事件をモデルにした映画「新聞記者」。官邸とメディアの攻防を描いた現役記者の自伝的著書を原案にした社会派サスペンスだ。

 東都新聞社会部に「医療系大学の新設」に関する極秘公文書が匿名ファクスで送られてきた。上司から取材を任された若手女性記者、吉岡エリカ(シム・ウンギョン)は、真相を突きとめるため動き出す。一方、外務省から内閣情報調査室に出向中のエリート官僚の杉原(松坂桃李)は、現政権を維持するために世論をコントロールする任務を命じられ苦悩していた。外務省時代の上司が自殺し、通夜の席で吉岡と出会ったことで、2人の人生が交差する。

 フィクションでありながら、物語に登場する題材のリアルさに驚かされる。官邸の関与疑惑を否定するため、捏造(ねつぞう)・拡散された官僚のスキャンダル。官邸の顔色をうかがう官僚たちの忖度(そんたく)。同調圧力に委縮した当時の報道の記事や言葉が目に浮かぶ。

 作品の魅力の一つが吉岡のキャラクターの設定だ。日本人の父と韓国人の母を持ち、アメリカで育ったグローバルな視点と、過去のトラウマに揺れる繊細さがもう一つの深いドラマを生み出した。

 内閣調査室の場面は冷たいブルー、雑多な色に囲まれた活気ある新聞社と、人物たちの感情を映し出すような画面の色調が印象的だ。

 吉岡のモデルとなったのは、原案の「新聞記者」著者で、東京新聞の望月衣塑子記者。彼女の記者としてのテーマは隠そうとしていることを探り、明るみにだすこと。首相の関係者や官僚の関与が疑われた森友、加計学園問題などをめぐり、記者会見で官房長官に何度も質問を投げかけ、権力に屈せず矜持(きょうじ)をつらぬく姿勢に感服させられる。

 今年4月に国境なき記者団が発表した「世界の報道自由度ランキング」で、日本は前年と同じ67位とG7(先進7カ国)の中で最下位だった。メディアへの圧力が懸念される中、何が起きているのか。試写室でスクリーンを見ながら、よくぞこの作品が制作されたとドキドキした高揚感が忘れられない。

=1時間53分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野ロキシー((電)232・3016)で8月3日(土)から公開
(2019年7月27日掲載)
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(C)2019「アルキメデスの大戦」製作委員会
(C)三田紀房/講談社

 1945(昭和20)年4月7日、巨大戦艦大和は米軍の猛攻を受け、撃沈した。「アルキメデスの大戦」は戦艦大和の建造を阻止するため、天才数学者が机上の戦いに挑む熱いドラマだ。

 1933年、国際連盟を脱退した日本は、世界から孤立し戦争への道を進み始めていた。軍事力を誇示するため世界最大の戦艦建造計画を推し進める軍部に異議を唱える海軍少将・山本五十六(舘ひろし)は、設計図に隠された秘密を暴くため、元帝大生の天才数学者・櫂直(菅田将暉)を抜てきする。次々と妨害工作が立ちはだかるなか、櫂は建造を阻止することができるのか。

 当時の日本の最高技術から生まれたという戦艦大和。全長263メートルの雄姿をスクリーンによみがえらせたのはVFX(視覚効果)の名手、山崎貴監督だ。オープニングから目を奪うのは当時の戦況を再現した米軍との激しい戦闘シーン。「今後の海戦は航空機が主流」という山本五十六の主張通り、海と空からの猛攻に耐え切れずついに海の藻くずとなる姿は悲愴(ひそう)感にあふれている。すべてCG(コンピューターグラフィックス)とは思えないほど、リアルな映像は圧巻だ。

 「ドラゴン桜」で知られる漫画家・三田紀房原作の映画化だが、これまでの戦争映画と一線を画すのは、数学者の視点で戦争をとらえていること。百年に一人の天才と言われる櫂の変人ぶりが実にユニークで面白い。美しい数学を追い求め、わずかな情報から即時に答えを導き出す才能は半端ない。

 日本に嫌気がさし渡米寸前の櫂を引き留めたのは、愚かな戦争への危惧だった。アメリカの力を知る櫂にとって無謀な日米開戦はありえないもの。軍隊嫌いの櫂が、海軍省の大会議で数式を解きながら真実に迫り、情報を秘匿する老獪(かい)な軍人たちの度肝をぬくシーンは痛快そのものだ。

 実際に戦艦は建造されてしまうのだが、我が物顔で権力を振りかざす軍部のありさまは、まさに老害と言いたくなる。今の日本を取り巻く危機感と、一部の人間に国の未来を無防備に預ける怖さがひしひしと伝わってくる。
=2時間10分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野グランドシネマズ((電)233・3415)で7月26日(金)から公開
(2019年7月20日掲載)
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(C) 2018 MEMENTO FILMS PRODUCTION - MORENA FILMS SL - LUCKY RED - FRANCE 3 CINEMA - UNTITLED FILMS A.I.E.

 スペインから国際派スターとなった女優のペネロペ・クルスと男優のハビエル・バルデム。ともにアカデミー賞助演賞を受賞した演技派で、実生活では夫婦という2人の共演で話題になったサスペンス映画が「誰もがそれを知っている」だ。

 妹の結婚式に出席するため、南米アルゼンチンからスペインの田舎に帰省したラウラ(ペネロペ・クルス)に不幸が襲い掛かる。パーティーの最中に娘のイレーネが失踪し、巨額の身代金が要求されたのだ。取り乱すラウラを幼なじみのパコ(ハビエル・バルデム)が支えるが、誘拐事件は思わぬ真相を見せ始める。

 スペインのきらめく太陽と陽気な人々。一族郎党が歌い踊るにぎやかな結婚パーティーのシーンから一転、画面は重い空気に包まれ暗さを増していく。愛する娘を奪われ半狂乱となるラウラも、美しい熟女から一気に憔悴し心痛に顔をゆがめる。

 本人が必死に隠そうとしても、いつしか「誰もが知っている」という小さな村社会の怖さとあきれるほどの息苦しさ。誘拐事件というサスペンスのスタイルをとりながら、底にうごめくのは人間の業だ。過去の遺恨が噴出し、互いに疑いのまなざしを向け、その振る舞いから疑心暗鬼にとらわれてゆく。

 まるで薄皮をはがすかのように登場人物の秘密が暴かれ、真実が明かされるたびに誰もが怪しく見えてきてしまう。この複雑な物語を紡ぐのは「別離」(2011年)と「セールスマン」(16年)で2度のアカデミー賞外国語映画賞を受賞したイランの名匠、アスガー・ファルハディ監督。オリジナルの脚本を自ら執筆し映像化する監督だが、15年前にスペインを旅した時に見かけた行方不明の子どもたちを探す写真から着想し、歳月をかけて脚本を書き上げたものだという。主演の2人は脚本の段階から当て書きしたというだけに、揺れる細やかな感情が見事だ。緻密な構成と巧みな展開が、ミステリータッチで濃密な人間ドラマを生み出した。=2時間13分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野ロキシー((電)232・3016)で公開中
(2019年7月13日掲載)
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(C)2019 LOTTE ENTERTAINMENT & DEXTER STUDIOS All Rights Reserved.

 人は亡くなると、どこに行くのか。「神と共に」は、死後の世界を斬新な映像とスタイリッシュなアクションを融合させて描いた痛快なエンターテインメント映画だ。

 消防士のキムは、高層住宅で人命救助中に命綱が切れ、転落死してしまう。亡者となった彼の前に現れたのは、冥界からやってきた3人の使徒。49日間のうちに7つの地獄で裁判を受け、無罪で通過すると、現世に生まれ変われるというのだ。

 生前、善き行いをしてきたキムは、転生の資格があると思われていたが、手ごわい裁判長たちの前で思いがけない真実が暴かれていく。

 過去千年間で47人の亡者を転生させた実績を誇る冥界のスーパー弁護士、カンニム役をハ・ジョンウ。武術にたけた警護役のヘウォンメクをチュ・ジフン。気弱で純真な補助弁護士のドクチュン役をキム・ヒャンギ。3人がキムを導く使徒に扮(ふん)している。

 ハリウッド映画「マトリックス」のようにロングコートを翻し、地獄の鬼や魔物、怨霊たちを剣でなぎ倒すスピード感あふれる壮絶なアクションは、すごいの一言。CGとVFXで描いた荒涼とした地獄のスケールの大きさにも圧倒される。

 天輪地獄の閻魔(えんま)大王をはじめ、殺人、怠惰、うそ、不義、裏切り、暴力と、7つの地獄の大王たちのキャラクターとビジュアルが何とも個性的だ。

 人間はなぜ罪を犯すのか。第一章から第二章へと幾つものエピソードを積み重ねるうちに、3人の使徒たちの思いがけない前世と因縁が明かされていく。原作は、韓国で伝説と称されるほど人気を集めたウェブコミック。その実写版だ。

 オープニングの地獄絵図、三途(さんず)の川や針の山など、日本人になじみ深い冥土の世界と東洋的な生死感が共感を呼ぶ。2部作の長編だが、ハイテンションで全く飽きさせない。

 第一章は韓国映画史上歴代2位、第二章も歴代10位の大ヒットを記録したというのもうなずける。

(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
 長野ロキシー((電)232・3016)で公開
 「第一章:罪と罰」=2時間20分(7月6日(土)から26日(金)まで)
 「第二章:因と縁」=2時間21分(7月20日(土)から8月9日(金)まで)
(2019年6月29日掲載)
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(C)2018 Gaumont / La Boetie Films / TF1 Films Production / Pour Toi Public

 もし、恋をした相手が障害者だったら...。「パリ、嘘(うそ)つきな恋」は、フランスで大ヒットした「最強のふたり」(2011年)と同じ製作会社が手掛けたコメディータッチのラブストーリーだ。

 ビジネスマンとして成功し、リッチな独身生活を謳歌(おうか)しているジョスラン(フランク・デュボスク)は、若い美人に目がない軽薄な男。偶然出会った美女ジュリーの気を引くために、車椅子の障害者だと嘘をついてしまう。

 ジュリーから紹介された姉のフロランス(アレクサンドラ・ラミー)は、事故が原因で、車椅子で生活しながら、スポーツを楽しみ、バイオリニストとして世界中を演奏旅行する快活な女性だった。常に新鮮な一面を見せるフロランスに、ジョスランはどんどん引かれるが、自分のついた嘘に次第に追い詰められていく。

 ジョスラン役のデュボスクはフランスの国民的な人気コメディアン。本作では、主演だけでなく脚本、そして監督も初めて手掛けている。きっかけは、高齢になった母親が車椅子を使い始め、障害者が抱える問題に自身が直面したことだったという。

 障害を笑いにすることで非難されかねないリスクをものともせず、コメディアンならではの視点で軽妙な笑いに変えていく。フロランスを知ることで変化するさまは、彼自身が現代社会の目のようだ。

 真実を告白できず車椅子で行動せざるを得なくなり、自分の首を絞めてしまう滑稽さ。優雅な独身貴族を楽しんでいるはずのジョスランのほうが、なぜか惨めに見えそうなほど、フロランスは大人の女性として鮮やかな輝きを放つ。

 聡明(そうめい)で魅力的なフロランスを演じたラミーは、代役ではなく、彼女自身が車椅子テニスをプレー。優れた芸術作品に贈られるクリスタル・グローブ賞・コメディー部門で主演女優賞を受賞している。

 誰もが年を重ねて、老い衰える。もしかしたら歩けなくなるかもしれない。そんな時にフロランスのように振る舞えたらと思う。差別や偏見などの社会問題をテーマにしながらも、ウイットに富んだ小粋な愛の物語に仕上げる手腕はさすが愛の国フランスだ。

=1時間48分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野ロキシー((電)232・3016)で6月29日(土)から公開
(2019年6月22日掲載)
 「美女と野獣」「ダンボ」など名作アニメーションを次々と実写化しているディズニーの最新作が「アラジン」。貧しい青年アラジンが、3つの願いをかなえてくれるランプの魔人ジーニーと冒険を繰り広げるアドベンチャー・ファンタジーの実写版だ。

 アラジン(メナ・マスード)は、お忍びで市場に出掛けたジャスミン姫(ナオミ・スコット)を助けたために、国を狙う邪悪な大臣に捕えられてしまう。「ダイヤモンドの原石」のような清らかな心を持つ者しか入ることができない洞窟に連れて行かれたアラジンは、偶然手にしたランプから現れた魔人ジーニー(ウィル・スミス)に助けられて、王子に大変身。身分違いの恋をかなえようとするのだが...。

 オリジナルから抜け出たようなキャラクターたちや、ミュージカル映画としての音楽の素晴らしさは、アニメ版と変わらない。アカデミー賞最優秀歌唱曲賞に輝いた名曲「ホール・ニュー・ワールド」のアラン・メンケンとともに、「ラ・ラ・ランド」や「グレイテスト・ショーマン」のチームが参加し、新曲も手掛けている。

 さらに、ラッパーとしても活躍するウィル・スミスが、ジーニーの魅力を一段とアップ。おなじみの「フレンド・ライク・ミー」などを、陽気でハッピーな青い魔人のジーニーが変幻自在に歌い、踊るシーンは絶品だ。吹き替え版も見事だが、ウィル・スミスのノリの良さも字幕版で楽しんでほしい。

 最近のディズニー映画の傾向は「強いプリンセス」。白馬の王子さまを待つのではなく、自ら幸せを勝ち取ろうとする毅然としたプリンセスだ。「女はスルタン(王)になれない」という決まりに反発するジャスミン姫も、民を愛する存在を目指し、真実の愛で結ばれることを夢見る現代的な心を持つ女性だ。

 アクションシーンに手腕を発揮する「シャーロック・ホームズ」シリーズのガイ・リッチー監督だけに、逃走劇や魔法のじゅうたんで飛び回るシーンのテンポの良さはスピード感にあふれている。

 きらびやかで美しい映像と夢のようなロマンスは、まさにアラビアンナイトだ。
=2時間8分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野グランドシネマズ((電)233・3415)で公開中
(2019年6月15日掲載)