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(C)2017 YLK Distribution LLC. All rights reserved. 

 米国の西部開拓史は先住民であるインディアンとの戦いの歴史でもあった。白人に敗れたインディアンは土地を奪われ居留地へと追いやられた。その後も長い間人種差別を受け続けることになる。

 西部劇全盛のハリウッドではインディアンは悪役。奇声を上げて白人を襲い頭の皮を剥ぐ、残虐な存在として描かれてきた。そんなステレオタイプな設定に抗議した名優マーロン・ブランドは、1972年のアカデミー賞授賞式で受賞を拒否したことも話題になった。 何が善で何が悪なのか。米国の負の歴史に挑んだのがスコット・クーパー監督の「荒野の誓い」だ。 

 1892年、米国西部の開拓地。南北戦争・インディアン戦争で戦い続けた英雄、騎兵隊のジョー・ブロッカー大尉(クリスチャン・ベール)が新たに命じられた任務は、がんで余命わずかとなったシャイアン族の首長イエロー・ホークと家族を居留地である故郷のモンタナに送り届けること。仲間を殺された恨みを抱えながら、かつての宿敵を守るという皮肉な旅に出たジョーに、次々と危険が襲い掛かる。

 平然と野蛮人とさげすみ悪意に満ちた白人もいれば、故郷を追われた先住民に同情する白人もいる。脚本も手掛けたクーパー監督は先住民たちを正確に描写することを心掛け、彼らの言語や歴史、文化に深く配慮したそうだ。実際にシャイアン族の首長やコマンチ族のコンサルタントが作品に関わっている。

 コマンチ族の残党が移住を拒否して虐殺を続けていたという。この物語にも狂暴なコマンチ族に家族を殺され、ただ一人生き延びた開拓民の女性ロザリー(ロザムンド・パイク)が旅に加わる。初めはホーク一家の姿におびえていたロザリーが、旅を続けるうちに次第に心を通わせてゆく。そして喪失感にとらわれているジョーもまた、イエロー・ホークと共に戦うことで尊厳と信頼で結ばれてゆく。敵対から生まれた憎悪が許しに目覚めてゆく心の旅路となるのだ。

 撮影監督を日本人の高柳雅暢が手掛け、スクリーンに映し出された雄大な西部の風景も見どころだ。
=2時間15分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野ロキシー((電)232・3016)で11月16日(土)から公開
(2019年11月9日掲載)
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(C)2019「閉鎖病棟」製作委員会 (C)H.Hahakigi/Sncs

 「閉鎖病棟」とは常時施錠され自由に出入りできない精神科の病棟のこと。「閉鎖病棟  ―それぞれの朝」は、自身が現役の精神科医でもある作家・帚木(ははきぎ)蓬生(ほうせい)の山本周五郎賞を受賞したベストセラー小説の映画化だ。

 長野県のとある精神病院には、さまざまな事情の患者たちが暮らしている。刑の執行が失敗し生きながらえた元・死刑囚、梶木秀丸(笑福亭鶴瓶)もその一人。陶芸に打ち込み、患者たちから慕われる穏やかな態度からは殺人犯の過去は見えない。病院から自由に外出できるチュウさん(綾野剛)は、幻聴に苦しむ元サラリーマン。新たに女子高生の由紀(小松菜奈)が父親のDVが原因で入院してきた。彼らが心を通わせ始めた矢先、思いがけない事件が起きてしまう。

 秀丸、チュウさん、由紀。3人とも一見では精神を患っているようには見えないが、次第に明かされる壮絶な過去は悲惨だ。7キロ減量して役に取り組んだという笑福亭鶴瓶をはじめ綾野剛、小松菜奈の演技が素晴らしい。
 
 社会から冷たい目で見られる精神の病。なぜ人はいとも簡単に他人を傷つけ追い込むのか。淡々と描かれる患者たちが抱える闇は、殺伐とした現代社会が作り出したものかもしれない。どちらが異常でどちらが正常なのか。病院の扉は彼らを閉じ込めるのではなく防御壁のようにさえ見える。

自分の心の病に苦しみながらも明るく振る舞い、他人の痛みを思いやる秀丸の気持ちが切ない。 

 原作に描かれた繊細な人間ドラマにほれ込み11年かけて映画化を実現したのは、日本アカデミー賞最優秀監督賞をはじめ海外からも高く評価された「愛を乞う人」(1998年)の平山秀幸監督だ。監督自ら脚本も手掛け、それぞれの心の揺らぎを丁寧にすくいとってゆく。 

 閉ざされた場所から再び社会へ出てゆく勇気。それぞれの朝というタイトルに未来への希望が込められているようだ。

 映画撮影では初めて長野県にある国立の精神科病棟で実際にロケが行われている。
=1時間57分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野千石劇場((電)226・7665)で11月1日(金)から公開予定
(2019年10月26日掲載)
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(C)松竹ブロードキャスティング

 予想を裏切るストーリー展開で昨年の話題をさらった映画「カメラを止めるな」。有名な俳優が出ているわけでもなく、大作でもない作品が口コミで大ヒットし、映画の面白さの原点を改めて教えてくれた。上田慎一郎監督のオリジナル脚本による劇場長編第2弾が「スペシャルアクターズ」だ。

 1500通の応募の中からオーディションで15人が選ばれ、その役者たちの個性を生かした物語をゼロから作るという、上田監督に課せられたとんでもない使命とプレッシャーから生まれたコメディーエンターテインメントだ。

 緊張すると気絶してしまう体質でオーディションに落ち続ける売れない役者、大野和人(大沢数人)は、弟の宏樹と数年ぶりに偶然再会する。和人と同じく役者を志していた宏樹が紹介したのは、俳優事務所「スペシャルアクターズ」だった。映画やドラマだけでなく、依頼人の要求を演技で解決する「何でも屋」の事務所に持ち込まれたのが、カルト教団から旅館を守ってほしいという依頼。教団の裏の顔を暴き、洗脳された家族を救うことができるのか。チームのメンバーになった和人は、気絶しそうになりながらも奮闘する。

 やはり突出しているのが脚本の巧みさだ。「美男美女はメジャー映画で見ればいい。不器用だけど人間として持っている個性が魅力的な人」という基準で選ばれた無名の役者たちに、監督はパズルをはめ込むかのように、あて書きしていったそうだ。顔が売れていないだけに、先が読めないストーリーの奔放さが楽しい。

 映画が持つ仮想や虚構の世界から離れて、登場する物語のエピソードは今の日本で実際に起きている事件や出来事につながるものばかり。うかうかしていると自分自身が被害者になりかねない社会の危うさに、スクリーンの画面に大笑いしながらも時折背筋が寒くなる。人間は誰しも演技しながら日常を生きている存在だと、ふと気づかされる。

 試写室には毎回、宣伝プロデューサーを兼ねている上田監督やキャストが来場してあいさつするという、情熱のこもった一本だった。
=1時間49分
(2019年10月19日掲載)

(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野グランドシネマズ((電)233・3415)で公開中



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(C)2019 3B-分福-MI MOVIES-FRANCE 3 CINEMA

 「シェルブールの雨傘」(1963年)の可憐(かれん)なヒロインを演じ、世界の注目を集めてから半世紀。フランス映画界に君臨する大女優カトリーヌ・ドヌーブと日本の是枝裕和監督が初めてタッグを組んだ最新作「真実」。是枝監督のオリジナル脚本を全編フランスで撮影したヒューマンドラマだ。

 国民的大女優ファビエンヌ(カトリーヌ・ドヌーブ)が自伝本「真実」を出版した。出版祝いに出席するためニューヨークで脚本家をしている娘のリュミール(ジュリエット・ビノシュ)が、娘婿のハンク(イーサン・ホーク)と孫娘シャルロットとともに一家で帰国した。さらにファビエンヌの落ちぶれた元夫ピエール、長年秘書を務めてきたリュックら、ファビエンヌの人生に関わる人々の思いが絡み合う。

 「誰も知らない」(2004年)、「そして父になる」(13年)など、カンヌ国際映画祭で高く評価され、昨年の「万引き家族」は最高賞のパルムドール賞を受賞した。長年フランスとの縁を深めてきた是枝監督だからこそ、キャストもスタッフも言語も文化も違う中で撮ることができたのではないだろうか。

 平然とうそをつき辛辣(しんらつ)な言葉を吐く毒舌家のファビエンヌ。今年76歳になるドヌーブは変わらぬ美貌で、気まぐれで傲慢(ごうまん)な大女優を風格とユーモアさえ感じさせながら貫禄たっぷりに演じている。

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 そんなファビエンヌを触発する新進女優マノン役のマノン・クラベルはオーディションで大抜擢された女優だが、架空の役名から本人の名前に変更されたという新人とは思えない存在感を発揮している。

 離れて暮らす母と娘の確執と和解。娘に見せる母の顔と女優の顔。これは演技か真実なのか。ファビエンヌの言葉や態度に翻弄(ほんろう)され、まさに真実は神のみぞ、いやファビエンヌだけが知る、女優という生きもののしたたかさとすごみを見せつけるドヌーブがなんとも魅力的だ。
=1時間48分

(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野グランドシネマズ((電)233・3415)で公開中
(2019年10月12日号掲載)

写真左=来日し、舞台あいさつするカトリーヌ・ドヌーブ
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(C)2018 Annapurna Productions, LLC. and Why Not Productions. All Rights Reserved.

 時はゴールドラッシュに沸く米国西部。金脈を求め多くの人々がカリフォルニアへと群れをなしていた。「ゴールデン・リバー」の原題は「ザ・シスターズ・ブラザーズ」。権威あるブッカー賞の最終候補作にもなった、パトリック・デウィットのミステリー小説の映画化だ。

 悪名高い殺し屋シスターズ兄弟のイーライ(ジョン・C・ライリー)とチャーリー(ホアキン・フェニックス)は、雇い主の提督からある殺人依頼を受ける。ターゲットは化学者のウォーム(リズ・アーメッド)。先に出発していた仕事仲間の連絡係モリス(ジェイク・ギレンホール)が居場所を突き止め、簡単に済む仕事のはずだった。

 開拓時代の西部を舞台にしながら、西部劇のジャンルを超えた濃密な人間ドラマに圧倒される。人の命をいとも簡単に奪う残忍な弟チャーリーに振り回されながらも、殺し屋稼業から足を洗い普通の人生に憧れる素朴な兄イーライの兄弟愛。ウォームを見張るうちにいつしかその人間性に魅せられてゆく連絡係のモリス。荒くれと知性派という相対する2組の男たちが顔をそろえたとき、思いがけない結末が待っていた。

 演じる4人は高い演技力で評価される個性派の面々。ひと癖もふた癖もある人物の内面を完璧なまでに捉えた見事な演技に、ぐんぐん引き込まれてしまう。

 なぜ化学者が狙われるのか。殺し屋が次第に迫ってくる追跡劇の緊張感と、道中で繰り広げられる激しい銃撃戦。ウエスタンにミステリーというスパイスを融合させた異色のサスペンスにほれ込んだジョン・C・ライリーが制作も務めている。

 ゴールドラッシュが突き動かす人間の欲望と心の変化を鮮やかに描写したのは、数々の映画賞に輝くフランスの名匠ジャック・オーディアール監督だ。この作品もベネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞、フランスのアカデミー賞といわれるセザール賞では9部門にノミネートされ、監督、撮影など4部門で受賞した話題作だ。

=2時間2分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野千石劇場((電)226・7665)で公開中
(2019年9月28日号掲載)
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(C)2019 Twentieth Century Fox Film Corporation

 ジョン・ロナルド・ロウエル・トールキンの傑作小説「指輪物語」「ホビットの冒険」は映画化されると、壮大なファンタジーの世界が多くの人々を魅了した。これらの作品がいかにして生まれたのか。「トールキン 旅のはじまり」は、偉大な言語学者でもあったトールキンの知られざる素顔と青年時代を描いた物語だ。

 トールキン(ニコラス・ホルト)は1892年南アフリカに生まれた。幼くして父を亡くし、イギリス・バーミンガムの母親の実家で暮らすが、12歳の時に母親も他界し無一文の孤児になってしまう。後見人の神父の計らいで勉学を続けるトールキンに、かけがえのない出会いが待っていた。

 トールキンの感性を育んだのは、まずは母親の存在だ。「どこであれ幸せなら、そこがわが家」。愛情深い母の教えと、貧しくとも想像力豊かな母親と過ごした時間が、トールキンの創作力と夢を育てた。そしてバーミンガムの美しい自然が、ホビットの物語の舞台となった。

 名門キング・エドワード校からオックスフォード大学へと進み、上流家庭の裕福な学生たちに交じって学ぶトールキンは、志を共にする3人と出会う。4人は「芸術の力で世界を変える」をスローガンに同盟を結び、生涯にわたる友情と絆を紡いでいく。

 映画「ロード・オブ・ザ・リング」(2001年)で、「ホビット」の4人組が「魔法使い」「ドワーフ」「エルフ」「人間」など違う種族と仲間となり、旅を続けるうちに理解と信頼を深めてゆくストーリーは、孤独だったトールキン自身の人生をたどるようだ。

 物語に登場する「中つ国」で、本物の言語のように会話する緻密さに驚かされたが、言語学と文学の研究に打ち込んだトールキンは、自分で言葉を発明する天才だった。

 多くの死と、自身も命を落としかけたことが後まで彼を苦しめたという第1次世界大戦への出兵。そして永遠の恋人とのロマンス。若き日のトールキンの苦悩と冒険が散りばめられた伝記は、物語の原点と出合う旅となった。
   =1時間52分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野ロキシー((電)232・3016)で28日(土)から公開
(2019年9月21日号掲載)
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(C)2018 BOY WHO LTD / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE / PARTICIPANT MEDIA, LLC

 アフリカで最も貧しい国の一つと言われるマラウイ共和国。「風をつかまえた少年」は、14歳のウィリアムが知恵と勇気で村を救った奇跡の実話の映画化だ。

 2001年、理科が得意な少年ウィリアム(マックスウェル・シンバ)は、真新しい制服を着て、誇らしげな笑顔を見せていた。父トライウェル(キウェテル・イジョフォー)と母に見送られ中学に通い始めたのもつかの間、大干ばつで家の収入が途絶え、学費を払えないウィリアムは退学を余儀なくされる。諦められないウィリアムは図書館に忍び込んで独学で学び、一冊の本との出合いが運命を変えてゆく。

 捨てられた廃材の中から役に立ちそうなものを拾い組み立てる。それはもうゴミではなく形を変えた資源となる。その発想を生み出す知識の素晴らしさ。日本なら義務教育で誰でも教育を受けられるのに、学ぶ機会を奪う貧困の悲しさと怖さがある。

 もっと怖いのは目先の欲で金と引き換えに森を伐採し、むき出しとなった乾いた大地が人間に復讐するかのように、干ばつと洪水を繰り返す。さらに飢餓の脅威が人々の心をすさませ、略奪まで起きてしまう。今もアマゾンでは人間による森林破壊が原因で火災が続き、多くの熱帯雨林が失われ深刻な問題となっている。

 アカデミー賞作品賞を受賞した「それでも夜は明ける」(2013年)で、自由黒人から奴隷にされた音楽家を演じたキウェテル・イジョフォーが、父親役だけでなく監督・脚本も手掛けた。アフリカからの視点でリアルに描きたいとマラウイでの撮影を敢行している。

 無学で肉体労働を優先する父と息子の確執と絆。見守る母親のアフリカの大地のようなたくましさ。そんな女性たちのファッションも目を奪う。

 原作のノンフィクションは世界的ベストセラーとなり、独力で電気を起こす風車を作り、自家発電に成功したウィリアムは2013年タイム誌の「世界を変える30人」にも選ばれた。風だけでなく未来もつかんだ少年の希望は、私たち人類の希望でもある。

 文部科学省選定(少年・青年・成人・家庭向き)。
    =1時間53分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野ロキシー((電)232・3016)で公開中
(2019年9月14日号掲載)

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写真=「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」の一場面

 1969年8月9日、ハリウッドを震撼させる大事件が起きた。カルト集団マンソン・ファミリーによる、女優シャロン・テート惨殺事件だ。「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」はこの事件を題材に、クエンティン・タランティーノ監督が、レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピット初共演で描くエンターテインメント大作だ。

 落ち目のテレビ俳優リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)は映画への転身を目指すがうまく進まない。意気消沈するリックを慰めるのは長年リックのスタントマンで付き人を務める親友のクリフ(ブラッド・ピット)だ。クリフは偶然ヒッピーの女の子を車に乗せたことで、怪しげな共同生活を送る集団を目撃する。そしてリックの隣家にロマン・ポランスキー監督と女優のシャロン・テート(マーゴット・ロビー)夫妻が越してきた。刻々と運命の日が近づく。

 人気絶頂時代のリックが主役を務めたテレビ番組や、次第に悪役やゲストばかりという情けないシーンが次々と映し出される。活路を見いだそうとマカロニウエスタン出演のためイタリアに渡るのは、クリント・イーストウッドを思わせる。こんなあるあるエピソードのオンパレードと、ブルース・リーやスティーブ・マックイーンら、外見もそっくりのスターたちが登場し、映画ファンは発見する楽しさ倍増だ。

 レオさまとブラピ、演技はどちらも申し分なく素晴らしい。肉体的には、一回りも年上なのに、スタントマンらしく鍛えたボディーを惜しげもなく見せてくれるブラピに軍配を上げたくなる。ヒッピーたちとの大立ち回りのアクションも見どころだ。

 「昔々」で始まるタイトルもタランティーノ監督がファンだというセルジオ・レオーネ監督の遺作「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」と重なる。60年代のヒット曲を集めた音楽にファッション、車、映画も再現され、一つの時代を見事に切り取った。まさにハリウッドの古き良き時代にオマージュを捧げた、タランティーノ監督の映画愛に満ちた作品なのだ。
=2時間41分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野グランドシネマズ((電)233・3415)で公開中
(2019年8月31日号掲載)
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(C) 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved

 俳優・監督として数々の名作を世に出してきたロバート・レッドフォードが60余年の俳優人生に終止符をうち、最後の出演作に選んだのは「さらば愛しきアウトロー」。演じるのは、逮捕・投獄されるたびにまんまと脱獄した、伝説の銀行強盗フォレスト・タッカーだ。

 1981年、テキサス州。初老の紳士が銀行の窓口を訪れ、にこやかに現金を奪うと悠然と去っていった。追跡するパトカーも機転で逃げ切る男の名はフォレスト・タッカー(ロバート・レッドフォード)。事件を追うハント刑事(ケイシー・アフレック)は、タッカーの仕事の美学と流儀に魅せられてゆく。偶然出会ったジュエル(シシー・スペイセク)との穏やかな時間に癒やされるタッカーに捜査の手が迫って来る。

 原題は「老人と銃」だが、タッカーは空っぽの銃をちらつかせるだけで誰も傷つけることはなかった。15歳から犯罪を繰り返したタッカーの手配写真が映される。若き日の美青年、レッドフォードに見とれる瞬間だ。タッカーが犯罪人生を締めくくるための仕事で逮捕されたのが80歳。引退を決めたレッドフォードとほぼ同じ年齢になる。 

 レッドフォードのヒット作は数知れず。アメリカン・ニューシネマの名作「明日に向って撃て!」(1969年)で列車強盗、「スティング」(73年)では詐欺師のアウトローを演じた彼が、最後に銀行強盗を演じるとは面白い。シリアスからサスペンス、そして「追憶」(73年)、「愛と哀しみの果て」(85年)などラブロマンスでも、甘いだけではない大人の男を魅力的に演じてきた。

 初監督作品「普通の人々」(80年)ではアカデミー賞を受賞した。主宰しているサンダンス映画祭では若き才能の発掘と映画人の育成に貢献している。俳優としてだけでなく、映画界の将来と真剣に取り組む生き方が見事だ。

 デヴィッド・ロウリー監督は当時の雰囲気を出すため、最新のデジタル撮影ではなく70年代の映画製作と同じ16ミリフィルムで撮影することにこだわったそうだ。引退作にふさわしく共演者の顔ぶれも豪華だ。これまでの作品をほうふつとさせるシーンも登場してファンにはうれしい。
=1時間33分
長野ロキシー((電)232・3016)で9月6日(金)まで上映予定

(2019年8月24日掲載)
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(C)2017 Papillon Movie Finance LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 「パピヨン」はフランス語で蝶(ちょう)のこと。胸に入れた蝶の刺青(いれずみ)から「パピヨン」と呼ばれたフランスの作家アンリ・シャリエールの壮絶な実体験を基にした世界的ベストセラー小説が、名優スティーブ・マックイーンとダスティン・ホフマンの共演で映画化されたのは1973年。命をかけたスリリングな脱獄劇と、男たちの友情の物語が45年ぶりにリメークされた。

 金庫破りのアンリ・シャリエール(チャーリー・ハナム)は盗んだ宝石を着服したことがボスにばれ、報復として殺人犯のぬれぎぬをきせられてしまう。終身刑で送られた先は南米フランス領ギアナの刑務所。そこは、囚人を死ぬまで働かせる悪名高い流刑地だった。脱獄の資金づくりの協力者として、偽札造りの天才ドガ(ラミ・マレック)を仲間にし、アンリは脱獄計画を実行する。

 リメークの怖さは、どうしてもオリジナルと比較されてしまうこと。マイケル・ノアー監督は、原作小説と、「ハリウッドの赤狩り」に抵抗した脚本家ダルトン・トランボのオリジナル脚本を基にしながら、新たなエピソードも追加してパピヨンの世界観を描き出した。

 華やかなパリ。真新しい囚人服に身を包んだ男たちが輸送船へ行進する。一転して、孤島での過酷な強制労働と残酷な徒刑場の悪夢のような日々が、灼熱(しゃくねつ)の太陽の下で繰り返される。 

 13年の獄中生活でどんな目に遭おうと脱獄を繰り返すアンリが、罰として7年もの独房生活を耐え抜くシーンの凄さは名場面の一つだった。痩せ衰え狂気を漂わせながら、生に執着するスティーブ・マックイーンの鬼気迫る演技が忘れられないが、ハナムも本来の見事な肉体を大幅に減量して役にチャレンジしている。

 オスカー俳優のダスティン・ホフマンが演じたドガ役に挑んだラミ・マレックもまた、「ボヘミアン・ラプソディ」で今年のアカデミー賞主演男優賞を受賞し、オスカー俳優となったのも記憶に新しい。奇妙な友情と絆で結ばれた男たちを演ずる2人の演技も見どころだ。

 自由の世界を目指して、紺碧(こんぺき)の海にアンリの蝶は羽ばたく。

=2時間13分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野ロキシー((電)232・3016)で17日(土)から公開
(2019年8月10日掲載)