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(C)2018 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.

 1970年代のアメリカ。男女平等の権利を求めて法廷に立った女性弁護士がいた。「ビリーブ 未来への大逆転」は、多数の女性差別撤廃訴訟を勝訴に導いたルース・ギンズバーグの実話の映画化だ。

 ルース(フェリシティ・ジョーンズ)は大学で知り合ったマーティン・ギンズバーグ(アーミー・ハマー)と結婚し、生まれたばかりの娘を抱えながら共にハーバード大法科大学院に入学する。さらに移籍したコロンビア大法科大学院を首席で卒業しながら、女性だからという理由で就職はままならず、男女差別の厚い壁に突き当たる。

 当時、ハーバードの法科大学院で女性が入学を許可されたのはわずか9人。女子トイレもなく、彼女たちに投げかけられた言葉は「男性の席を奪ってまで、なぜ入学したのだ」という女性蔑視の冷ややかな嫌みだった。

 現代では当たり前のように男性が家事や育児を手助けしているが、女性は家にいるものとされた時代。自分名義のカードも持てず、仕事で残業もできなかったという。先進国アメリカとは思えないほど、女性の権利が認められていなかった。

 日本でも先日、東京大の入学式で、社会学者の上野千鶴子名誉教授が、性差別による大学の不正入試問題に言及し、学生たちを激励したことが関心を呼んだ。

 貧しいユダヤ人の家庭に生まれ、勉強もままならなかったというルースが、弁護士、法律学者、判事としていかにして苦難を乗り越えたのか。もちろん、妻を理解し、支える夫の献身なくして語れない夫婦の愛の物語でもあるのだ。

 「仕事も勉強も諦めない」。あくなき向上心で、自分の能力を生かせる場所にたどり着いた女性の半生を描いたのは、同じく女性監督としてハリウッドで実績を積み重ねてきたミミ・レダー監督だ。

 1993年にアメリカ史上2人目となる女性最高裁判事に任命され、86歳になった今も現役としてその職を務めるルース。先駆者として彼女の強い信念が時代を変え、女性たちを導く存在となった。彼女の勇気に奮い立たされる心地良さが、この作品にはある。

=2時間
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野千石劇場((電)226・7665)で公開中
(2019年4月27日掲載)
(C) Parallel Films (Storm) Limited / Juliette Films SA / Parallel (Storm) Limited / The British Film Institute 2017

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 SF小説のジャンルに大きな影響を与えたフランケンシュタイン。1818年に英国で出版された「フランケンシュタイン」の作者が女性だということを、どれくらいの人が知っているだろうか。「メアリーの総て」は、18歳で傑作を書き上げた英女流小説家メアリー・シェリーの波乱の人生を描いた物語だ。

 母親が眠る静かな墓地でペンを走らす風変わりな少女メアリー(エル・ファニング)。思想家だった母を亡くし、継母と折り合いが悪い日々を過ごしていた。

 見かねた父親が送り出したスコットランドの友人の屋敷で、「異端の天才詩人」と評判のパーシー・シェリー(ダグラス・ブース)と運命の出会いが待っていた。妻子がいると知らぬまま駆け落ちしたメアリーに、苦難が待ち受けていた。

 放蕩にふける生活に、借金取りから夜逃げ、妊娠、出産、そして子どもの死...と、作家を夢見る17歳の少女の身に次々と降りかかる悲劇が、創作への源になっていく。

 社交界の寵児バイロン卿の提案で怪奇譚を書くことになったメアリーが生み出したモンスターは、創造主のフランケンシュタイン博士に裏切られ、孤独な旅を続ける。その悲しい姿は自由と愛する者との絆を求め、さまようメアリーの旅路と重なるようだ。

 当時は女性の名前では出版できないと断られたため、やむなく夫の序文で出版され、彼女の存在は隠されたままだった。

 子役として多くの作品に出演してきたエル・ファニングが、毅然として自立していく一人の女性を体現する大人の女優に成長した姿に、感動してしまった。

 監督は、「少女は自転車にのって」(2012年)がアカデミー賞外国語映画賞候補として出品されて注目を集めたサウジアラビア初の女性監督ハイファ・マンスール。メアリーの時代と同じように、いまだに封建的なサウジ社会でアーティストとしてもがき続けたマンスール監督だからこそ描けたメアリーの戦いと葛藤がある。
=2時間1分

(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野千石劇場((電)226・7665)で4月26日(金)から公開
(2019年4月20日掲載)
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(C)2018- Maneki Films-Wild Bunch-Arches Films-Gapbusters - 20 Steps Productions - RTBF (Television belge)

 過激派組織「イスラム国」(IS)の攻撃で平和を奪われた人々。イラクでは、政府が全土解放を宣言したものの、今も恐怖が暗い影を落としている。「バハールの涙」は、ISに戦いを挑んだクルド人女性と、女性戦場ジャーナリストの実話が基だ。

 戦場で片目を失ったフランスのジャーナリスト、マチルド(エマニュエル・ベルコ)は、クルド人自治区で女性戦闘部隊「太陽の女たち」のリーダー、バハール(ゴルシフテ・ファラハニ)と出会う。なぜ女性たちが前線に立つのか、取材を続けるうちに、バハールの壮絶な過去を知る。

 2014年8月、イラク北部の山岳地帯の村々がISに襲われた。弁護士として家族と幸せに暮らしていたバハールは、帰省していた故郷で襲撃に巻き込まれ、ISに捕らわれてしまう。夫を殺され、息子と引き離されたバハールは、奴隷として売られ失意の日々を送るが、息子を取り戻すため、脱出して戦闘員になった。

 脚本を手掛けたエヴァ・ウッソン監督は自ら戦地と難民キャンプに赴き、逃げ出した女性たちの体験と証言を基に、主人公のバハールを生み出した。バハールと同じように性的奴隷を強制された被害者で、人身売買の惨状と救済を世界に訴え続けた人権活動家ナディア・ムラドさんは2018年に、ノーベル平和賞を受賞している。

 カメラで真実を伝えようとするマチルドも、片目を失明しながら、世界各地の紛争を報道し続けた実在の女性ジャーナリストがモデルになっている。

 ISは、成人男性を皆殺しにし、拉致した子どもたちに3歳から人を殺すことを学ばせて聖戦主義者に仕立てるという残虐行為をしていた。

 愛する人を守るため、そして自由のために武器をとって立ち上がった女たち。過酷な過去を乗り越え、誇り高く生きる女たちの何とりりしいことか。スクリーンにはこれまでに見たことのない女たちの姿がある。愛のために戦う女は悲しくて、美しい。
=1時間51分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野ロキシー((電)232・3016)で3月30日(土)から公開

(2019年3月9日掲載)
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(C)2019「まく子」製作委員会/西加奈子(福音館書店)

 西加奈子さんの直木賞受賞後1作目の小説となる「まく子」。児童小説の枠を超えて、小学5年生の少年の目を通しながら、大人たちの心の機微も描いた物語の映画化だ。

 山奥のひなびた温泉旅館の息子、サトシ(山崎光)の悩みは尽きない。女癖が悪い父の光一(草彅剛)に泣かされながら旅館を切り盛りする母の明美(須藤理彩)の姿に心を痛めている。そして自分の体に起きている変化にももんもんとする毎日だ。

 そんなある日、クラスに美少女コズエ(新音)が転校してきた。大人びた雰囲気とは別に、枯れ葉や紙の花など、なんでも無邪気にまいて喜ぶ風変わりな少女だ。ある時、コズエから信じられないような秘密を打ち明けられて、困惑しながらも、次第に魅了されていく。

 父親を軽蔑するあまり、大人になりたくない少年が、自分の体に起きている大人の男への証しに羞恥心を抱いて、戸惑う。思春期を迎えた少年の複雑な気持ちが繊細に映し出される。息子に嫌われながらも、男親ならではのおおらかさで受け止める父親を演じた草彅剛の駄目ぶりが、実にうまくて見ほれてしまった。

 上田市出身の鶴岡慧子さんが監督で、脚本も手掛けた。初長編映画「くじらのまち」が「ぴあフィルムフェスティバルアワード2012」でグランプリを受賞。海外の映画祭でも高い評価を受けた若手女性監督だ。劇場デビュー作「過ぐる日のやまねこ」(2014年)では、喪失と再生をテーマに、上田でロケを行っている。

 「まく子」とは何とも奇妙なタイトルだが、コズエが興味を持ってまくシーンは美しく、西加奈子の世界観を見事に映像化している。
 誰もが大人になるために、通り過ぎなければならない思春期という特別な季節。性に目覚め、大人の入り口に立つ子どもたちには「今を生きる」大切さを、大人たちには忘れていた子ども時代のみずみずしい時間を思い出させてくれる。

    ◇

 3月30日(土)、鶴岡慧子監督が舞台あいさつをします。時間など詳細は問い合わせ。
    =1時間48分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野千石劇場((電)226・7665)で公開中
(2019年3月16日掲載)
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(C) 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

 「グリーンブック」は人種隔離政策時代、黒人が利用できる米国のホテルやレストランなどを記載した旅行ガイドブックだ。創刊者であるビクター・グリーンにちなんでつけられ、1966年まで発行された。この作品は黒人ピアニストとイタリア系白人ドライバーの旅を描いた実話の映画化だ。
 1962年のニューヨーク。トニー・リップ・バレロンガ(ヴィゴ・モーテンセン)は、腕っぷしの強さを買われ、カーネギーホールの高級マンションに住む音楽家ドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)の用心棒兼運転手に雇われる。

 目的地は黒人に対する偏見と差別が根強い南部。2カ月にわたるコンサートツアーだ。どんなに素晴らしい演奏をしても、公然と行われる差別と屈辱に静かに耐えるドクター・シャーリーの姿を目の当たりにしたトニーは、自分の痛みのように感じ始める。

 粗野で無教養、食事の量が半端でなく、でっぷりおなかのトニー。対極にあるドクター・シャーリーは繊細、優雅で、教養も品格も全てを備えた天才ピアニストだ。初めは黒人嫌いだったトニーだが、冷静な仮面の下に隠されたドクター・シャーリーの孤独と悲しみを知り、次第に変わっていく。

 生涯続いたという2人の友情物語を聞いて育った息子のニック・バレロンガが脚本と制作を手掛け、ピーター・ファレリー監督が偏見に対する怒りをユーモアで包み、心温まるコメディー映画として描き切った。今年のアカデミー賞で主要5部門にノミネートされ、作品賞、脚本賞を受賞。そしてマハーシャラ・アリが「ムーンライト」(2016年)に続いて2度目の助演男優賞を受賞し、3冠を獲得した。

 スタインウェイのピアノでしか演奏しなかったドクター・シャーリーの音楽スタイルを、正確に再現したというシーンも見どころだ。アカデミー賞作品賞を受賞した名作「ドライビング・ミス・デイジー」(1989年)をほうふつとさせる。白人至上主義が再び台頭している今だからこそ、物語に込められた「人は変われるのだ」という強いメッセージに胸が熱くなる。

=2時間10分

(2019年3月9日掲載)
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(C)2017 - Elephant Doc - Petit Dragon - Unbeldi Productions - France 3 Cinema

 世紀の歌姫として人々を魅了し続けたソプラノ歌手マリア・カラス。「私は、マリア・カラス」は、これまで知られることのないカラスの人生を追ったドキュメンタリーだ。

 ギリシアから移民した両親のもとに米ニューヨークで生まれたマリアは、野心家で厳しい母親に伴われ、ギリシアに移住する。年齢を4歳偽り、13歳でアテネ音楽院に入学したというから驚きだ。天賦の才能だけでなく勉強一筋のカラスは、15歳で初めてオペラに出演する。音楽院を卒業後、不遇の時代はあったものの、瞬く間に世界有数のオペラハウスで公演を行い、称賛を集めていく。

 語りかける目と大きな口。洗練されたファッション。あふれる才能と美貌から発するオーラは見る人をとりこにする。まだデビューしたての初々しい映像から、芳醇(ほうじゅん)さを身にまとって演ずるヒロインは圧巻だ。

 「蝶々夫人」「椿姫」「ノルマ」「トスカ」「カルメン」などオペラハウスでの実際の名場面が次々と映し出され、華麗なオペラの世界に引き込まれる。それだけで十分だと思うほど素晴らしいが、カラスの人間としての生きざまと影が、このドキュメンタリーを深いものにしている。

 母になる喜びを願った結婚はかなわず失敗。ギリシアの海運王オナシスとの不倫愛。ケネディ大統領の未亡人ジャクリーンの出現による悲恋。体調を崩し舞台を降板すれば、「わがまま」というレッテルをマスコミに貼られ、スキャンダラスに書き立てられて追い詰められる。

 カラスの歌声に感銘を受けたトム・ヴォルフ監督は、3年の月日をかけてカラスの足跡を追い求めたという。世界中から集められた未公開の映像と音源は、まさにお宝。復帰ツアーの東京でのコンサートシーンは、日本人の私たちにとって歴史的な一ページになった。

 自叙伝と4百通を超す手紙など、たくさんの資料から明らかになるカラスの真実。インタビューで彼女自身が語る言葉に、これまで見たことのない素顔のマリア・カラスがいた。53歳で死去したカラスは歌に生き、恋に生き、伝説になった。
=1時間54分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野千石劇場((電)226・7665)で3月1日(金)から公開
(2019年2月23日掲載)
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(C)2018 Twentieth Century Fox

 アン女王の寵(ちょう)愛を巡る対立と陰謀を描いた「女王陛下のお気に入り」は、ギリシャの奇才と呼ばれるヨルゴス・ランティモス監督が、斬新な映像美で描く宮廷ドラマだ。

 18世紀初頭、フランスと交戦中のイングランドを治めるアン女王(オリビア・コールマン)は、痛風に苦しんでいた。病弱で情緒不安定な女王を意のままに操るのは、女王の幼なじみの女官長レディ・サラ・チャーチル(レイチェル・ワイズ)だ。

 絶対的な権力を振るういとこのサラを頼りにやってきた没落貴族のアビゲイル(エマ・ストーン)は、宮廷で働き始める。偶然、女王の苦痛を和らげたアビゲイルはサラに気に入られ、侍女に昇格すると、再び上流階級へ返り咲く野望を募らせていく。

 女王のお守り役を奪い合うサラとアビゲイル。策略をめぐらす2人の女の駆け引きは息詰まる心理戦だ。男女の情愛さえも利用する狡猾(こうかつ)さ。最後に女王の心をつかむのは誰なのか、意外な展開から目が離せない。

 女王を悩ませた当時の政争は戦争の継続か終結か、紛糾する議会で男たちが見せる権力闘争もかすんでしまう。実話を基に、実在する歴史上の人物がうごめく脚本は恐ろしくさえある。

 自然の光の中で撮影された陰影が、登場人物の内面まで映し出すようだ。宮廷として撮影された室内装飾が美しい部屋の数々は、16世紀に造られた貴族の館。豪華絢爛(けんらん)な衣装も見どころだ。

 流産と死産で17人もの子どもを失い、孤独と政治のストレスにさいなまれたアン。子どものように駄々をこねたかと思うと、頑固な女王へと豹変(ひょうへん)する。

 危うさともろさを併せ持つ女王を、圧倒的な存在感で演じたオリビア・コールマンは、ベネチア国際映画祭で女優賞を受賞。アカデミー賞では作品、監督、脚本をはじめ、10部門でノミネートされた。三人三様の迫真の演技で壮絶な女の戦いを繰り広げた女優たちが、3人そろって主演、助演でノミネートされるという見ごたえ十分の話題作だ。
=2時間
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野グランドシネマズ((電)233・3415)で公開中
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(C)2018 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved

 風に乗ってやってきた不思議な魔法使いメリー・ポピンズの物語が、1964年に公開されてから半世紀の時を超えて帰ってきた。「メリー・ポピンズ リターンズ」の舞台は、ポピンズがバンクス家を去ってから25年後のロンドン。2人の子どもはすっかり大人になり、マイケル少年自身も3人の子どもの父親になっていた。

 だが、大恐慌で不景気な時代。マイケルの仕事はうまくいかず、妻に先立たれたバンクス家は荒れ放題。何とか父親の手助けをしたいという子どもたちの声を聞きつけ、メリー・ポピンズ(エミリー・ブラント)が再び舞い降りた。

 教育係になったポピンズは、お風呂から海中へワープしたり、陶器の絵の世界に入り込んで冒険したりと、子どもたちの心をつかんでいく。

 楽しい魔法と音楽にわくわくした「メリー・ポピンズ」のカラフルな世界観は変わらない。1作目は、ペンギンとの共演を実写とアニメで合成して話題になった。CGの進歩でどんな映像も可能になったにもかかわらず、セル画の平面的な技法を使ったシーンは、ディズニーらしいクラシックな味わいだ。1作目にオマージュをささげたシーンが随所に見られるのも、オールドファンには懐かしい。

 前作で軽妙なダンスを繰り広げた大道芸人のバートに変わり、ポピンズの友人として登場するジャツクの仕事はガス灯の点灯。ガス灯を使ったダンスが「雨に唄えば」をほうふつとさせるのも、ミュージカルが得意なロブ・マーシャル監督ならではだ。「シカゴ」(2002年)「ナイン」(09年)などのミュージカルを手掛けているだけに、ミュージックホールのシーンは洗練されたダンスと衣装が魅力的だ。

 ポピンズ役でアカデミー賞主演女優賞を受賞したジュリー・アンドリュースとは一味違い、いたずらっ子のようなおちゃめな瞳が印象的なエミリー・ブラントをはじめ、オスカー俳優のメリル・ストリープやコリン・ファースら、演技派が歌声を披露しているのも見どころだ。日本語吹き替え版では平原綾香が美しい歌声でポピンズを演じている。
=2時間11分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野グランドシネマズ((電)233・3415)で公開中
(2019年2月9日掲載)
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(C)2018"Ten Years Japan" Film Partners

 2018年カンヌ国際映画祭で最高賞「パルムドール」を獲得した「万引き家族」の是枝裕和監督が、エグゼクティブプロデューサーを務めた短編オムニバス作品「十年 Ten Years Japan」。5人の新進映像作家が日本の未来を問いかける作品だ。

 長寿国の日本をテーマにした「PLAN75」。厚生省人口管理局なる機関が、高齢者が抱える不安につけこむような制度を運営している未来国家だ。

 公務員の伊丹が勧誘するのは、家族も金もない貧しい年寄りたち。長生きして生活苦に悩むより、75歳であの世に旅立てば、支度金や葬儀サービスが受けられるという「死のプラン」を受け入れた高齢者を待ち受けたものとは...。

 AI(人工知能)による道徳教育で子どもたちが管理される社会。反抗すると厳しい罰が与えられるシステムに、やんちゃな小学生が立ち向かう「いたずら同盟」。

 データが入ったデジタル遺産で、母親の秘密を知る女子高生の戸惑いを描く「DATA」。

 原発事故で見えない恐怖に生活を脅かされながら暮らす人々の姿を描いた「その空気は見えない」。

 そして、政治家が口にする聞こえのいい言葉「美しい国」がタイトルに。ここで描かれるのは、戦争を知らない世代が占める日本。すでに徴兵制が導入された社会だ。

 AIの登場で世の中は、考えられないほどのスピードで進化してきた。10年後の日本はどうなっているのか。この5作品で描かれた未来は、10年たたずともやってくるかもしれない。現実味を帯びた恐怖がちらつく。

 私たちが選ぶ今の積み重ねが未来をつくるのだと、気付かされる。若手クリエーターたちが作品に込めた思い。国家が管理する社会に何が起きるのか、5つの短編が警鐘を鳴らす。
=1時間39分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野ロキシー((電)232・3016)で1月26日(土)から2月1日(金)まで上映。

    ◇

 【初日舞台あいさつ】
 1月26日(土)12時30分の回上映終了後に、プロデューサーの水野詠子さん(長野市出身)と、プロデューサーのジェイソン・グレイさんが行います。
(2019年1月26日掲載)
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(C)2018 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. AND WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

 ボクシングの世界を描いた「ロッキー」シリーズ6作品の中で、ドラマチックなストーリーが印象的なのが、4作目の「炎の友情」(1985年)だ。ロッキーのライバルから親友となったアポロが、旧ソ連のドラゴとのエキシビション・マッチで倒されて絶命。ロッキーが敵地での壮絶な弔い合戦に挑んだ。本作の「クリード 炎の宿敵」で、因縁の闘いが再燃する。

 ロッキー(シルベスター・スタローン)の指導を受けたアポロの息子、アドニス・クリード(マイケル・B・ジョーダン)は、世界ヘビー級のチャンピオンベルトを手にしていた。恋人との結婚も決まり、幸せの絶頂にいるアドニスに、挑戦状がたたきつけられる。

 相手は、かつてアポロを死に追いやったドラゴ(ドルフ・ラングレン)の息子ヴィクターだった。ドラゴの復讐(ふくしゅう)心を知るロッキーの反対を押し切って、アドニスはリングに上がる。

 父親同士の対決から生まれた憎悪が、息子たちの闘いへと連鎖していくストーリーは、シェークスピア劇を見ているかのようだ。

 アクションスターとして活躍するスタローンとドルフ・ラングレンが、老いたロッキーとドラゴとして再会する。国の威信をかけたドラゴは、ロッキーに敗れた後、野良犬のような屈辱的な人生を送った。互いに父親になり、人生の辛酸をなめ尽くした男たちを、アクションだけでなく、役者として熟成した演技で深みを添える。

 しかも、作品が縁でプライベートでスタローンと夫婦になり、後に離婚したブリジット・ニールセンが、ドラゴの冷酷な元妻役で登場。プロの俳優魂を実感させてくれた。

 ロッキーの銅像が立つフィラデルフィアのおなじみの風景や街並み、そして白熱するファイトシーンに流れるテーマ曲に胸が熱くなる。「ロッキー」1作目が公開された1976年に始まり、2015年の「クリード チャンプを継ぐ男」で、新たなシリーズが巧みに紡がれている。

 人生というリングで、敗者がいかに立ち上がるのか。シリーズを見てきたファンにはたまらない最高の後日談になった。
=2時間10分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野グランドシネマズ((電)233・3415)で公開中
(2019年1月19日掲載)