ロング、ロングバケーション

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(C)2017 Indiana  Production  S.P.A
 人は病気や高齢になると、死を意識して終活に入ることがある。「ロング、ロングバケーション」は、50年連れ添った老夫婦の最後の旅を描いたロードムービーだ。

 がん治療のために入院するはずの日、エラ(ヘレン・ミレン)は夫のジョン(ドナルド・サザーランド)と共に、子どもたちに黙ってキャンピングカーで家を飛び出した。目的地は文学教師だったジョンが敬愛するヘミングウェーの家。ボストンからフロリダのキーウェストを目指すアメリカ縦断の旅が始まった。

 ロードムービーの魅力は、訪れる土地や風景を観客も一緒に楽しめること。夫婦に負けないくらい年季の入ったキャンピングカーがルート1号線を南下していく。

 キャンプ場だけでなく、時には超豪華なスイートルームを楽しみ、残り少ない人生を謳歌する2人。夜ごと見つめるのは、思い出のスライド上映だ。これまでの人生を彩った喜びや苦悩を映し出し、夫婦が歩んだ半世紀を巧みに紡ぎだす。

 軽快な旅かと思いきや、エラの病気だけでなく、ジョンも認知症が進行中。ジョンの記憶の混乱が次々とトラブルとハプニングを巻き起こすのだが、悲惨さよりもどこかコミカルで噴き出してしまう。笑って泣いて、生きることのいとおしさが切なく胸にしみてくる。

 老夫婦の冒険を明るく、時にはエモーショナルに描いたのは、「歓びのトスカーナ」(2016年)「人間の値打ち」(13年)で、イタリアのアカデミー賞を獲得したイタリアの名監督パオロ・ヴィルズィだ。

 ハリウッドからのオファーに、なかなか首を縦にふらなかった監督が、撮影の条件にしたのが2人の名優の存在だったという。アカデミー賞常連の演技派ヘレン・ミレンが気丈で夫を愛するかわいい妻に、悪役やあくの強い役柄が得意なドナルド・サザーランドが認知症の元教師にふんし、これまでとは一味も二味も違う役柄を、チャーミングに演じている。

 いつも寄り添い生きてきた夫婦が、人生の最後にどう向き合うのか。2人の決断に共感できることも多いのではないだろうか。
    =1時間52分
(2018年4月7日掲載)
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(C)2018「北の桜守」製作委員会

 南の沖縄、北の北方領土と戦争の深い傷跡は、いまだに悲しみをもたらしている。これまでも平和への願いを数々の作品に込めてきた吉永小百合の120本目となる出演作が「北の桜守」である。「北の零年」(2005年)、「北のカナリアたち」(2012年)に続いて、広大な北海道を舞台に、激動の時代を生き抜いた親子の愛と絆の物語だ。

 1945年8月9日、ソ連が対日参戦。日本領だった南樺太(ロシア・サハリン南部)に侵攻を始めた。多くの日本人が土地を追われ、命を失った。製材所を営む江蓮家にも危険が迫り、てつ(吉永小百合)は夫徳次郎(阿部寛)と再会の約束を胸に、2人の息子を連れて命からがら網走に引き揚げてきた。

 それから26年、渡米していた次男の修二郎(堺雅人)は札幌で外食チェーンの日本上陸一号店を開くため帰国。多忙を極める中でもたらされたのは、網走で元気に暮らしているとばかり思っていた母親の老いと病気だった。

 15年ぶりに再会した母親と2人で思い出をたどる旅の中で、封印されていた悲しい記憶が明かされていく。

 タイトルの「桜守」は桜を保護し育てる人のことである。子どもが生まれた時にまいた種から育ててきたてつにとって、幸せの象徴である桜は特別な意味を持つ木なのだ。

 まるで自分が桜の化身かのようにはかなく潔く、芯の強さを秘めた母を演じるのに、これほどふさわしい女優はいないのではないか―と、吉永小百合という映画女優の存在感に圧倒される。年齢を重ねても変わらぬりんとした美しさ。極寒の地で、体当たりで臨んだ撮影だけでなく、新たな試みにも挑戦している。実写だけでなく、劇中劇として舞台演出を取り入れ、引き揚げの道中で起きた悲劇を、演劇を見ているかのように幻想的に訴える。吉永にとって舞台演劇は初めてなのだという。

 史実を基にしたフィクションとはいえ、あまりにも多くの犠牲を払った残酷な歴史に、戦争の悲惨さを忘れてはならないと思う。

 監督は「おくりびと」(2008年)で日本映画初となるアカデミー賞外国語映画賞を受賞した滝田洋二郎監督だ。

=2時間6分
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(C)2017 New Classics Media,Kadokawa Corporation,Emperor Motion Pictures,Shengkai Film

 日中共同製作のチェン・カイコー監督の「空海 KU―KAI 美しき王妃の謎」は、夢枕獏原作「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」の映画化である。若き日の空海が遣唐使として渡った中国で繰り広げる冒険物語だ。

 密教の教えを求めて唐の都、長安に滞在する空海(染谷将太)は怪事件に巻き込まれる。

人語を話す黒猫の妖術にとりつかれた権力者が、次々と不審な死を遂げていたのだ。空海は詩人の白楽天(ホアン・シュアン)とともに、化け猫退治にとりかかるが、その陰に楊貴妃の死の秘密があることにたどりつく。

 過去からよみがえるのは玄宗皇帝、楊貴妃、李白、安禄山、そして遣唐使の阿倍仲麻呂(阿部寛)。歴史好きにはたまらない人物たちが登場し、スクリーンに息づく。

 日本に真言密教をもたらした偉大な僧であり、さまざまな伝説を残す天才僧侶、空海は陰陽師のようにたたりをはらい、幻術使いと対峙する。後に「長恨歌」で玄宗皇帝と楊貴妃の深い愛を詠んで大詩人となる白楽天が、シャーロックホームズとワトソンばりの名コンビで空海と事件の真相に迫る面白さがある。

 チェン・カイコー監督がみせる美の追求と本物へのこだわりは、本作でも健在だ。きらびやかな衣装の数々や原寸大で製作した遣唐使船、CGではなくオープンセットで作り上げた長安の都。デザインから完成まで6年の歳月をかけて完成した都は、東京ドーム8個分というから、何ともぜいたくである。壮大なスケールで描かれた時代絵巻は、1200年前にタイムスリップしたかのように圧巻だ。

 絶頂期を迎えていた唐で権力を振るう玄宗皇帝のちょう愛を一身に受け、「傾国の美女」と呼ばれた楊貴妃を演じたチャン・ロンロンはため息が出るほど美しい。彼女のために催された「極楽の宴」のシーンは、妖しく華やかだ。

 実際には中国語で撮影されているが、日本での公開は日本語吹き替え版。ボイスキャストの顔ぶれが実に豪華かつ芸達者ばかり。違和感なく悠久の歴史ロマンに浸れるファンタジー・エンターテインメントだ。
=2時間12分
(日本映画ペンクラブ会員ライター)
(2018年2月24日掲載)
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(C)Twentieth Century Fox Film Corporation

 19世紀半ばのアメリカで、ショービジネスの礎を築いた実在の興行師P・T・バーナム。「グレイテスト・ショーマン」は、彼のショーにかける情熱と家族への愛を描いたオリジナル・ミュージカルだ。

 貧しい育ちのバーナム(ヒュー・ジャックマン)は、幼なじみで名家の令嬢チャリティ(ミシェル・ウィリアムズ)と身分の違いを超えて結ばれる。かわいい娘にも恵まれ、豊かな生活を家族にさせたいと願うバーナムは、ショービジネスの世界に飛び込む。斬新なアイデアでショーをヒットさせるが、さらなる高みを目指すバーナムに思わぬ危険が待ち受けていた。

 バーナムが観客に差し出したのは、社会から疎外され、陰に隠れていた人々だ。男以上に立派なひげが生える女や、大人なのに体は少年のままの小人。一歩間違えれば、奇形を集めた見世物小屋の際どさを、個性あふれるパフォーマーとしてショーの世界で輝かせたバーナム。卑屈だった彼らが自信に満ちて、力強く歌い踊るオープニングから一気に物語の世界に引き込まれてしまう。

 「シカゴ」(2002年)「ドリームガールズ」(06年)「美女と野獣」(17年)などのミュージカル映画を手掛けたビル・コンドンが脚本を担当。「ラ・ラ・ランド」(17年)でアカデミー賞主題歌賞を受賞した名コンビ、ベンジ・パセックとジャスティン・ポールがオリジナルの楽曲で、ショーの世界へといざなう。

 バーナムに関わる人々のエピソードが物語を彩る。夢想家の夫に尽くす妻チャリティの揺るぎない愛。バーナムのビジネススタイルに魅了され、上流階級の生活を捨ててパートナーとなるフィリップ(ザック・エフロン)と空中ブランコのスター、アン(ゼンデイヤ)との恋はロマンチックで、2人が空中で心を通わせるシーンは夢の世界に羽ばたくようだ。

 ゴールデン・グローブ賞で主題歌賞を受賞した「ディス・イズ・ミー」は、外見や身分の違いではなく、ありのままで自分らしく生きていく心の叫びを歌い上げる。
    =1時間45分
(2018年2月17日掲載)
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(C)2017 Media Asia Film Production Limited All Rights Reserved. 

 文化大革命後、開放政策の一環として中国で初めて公開された外国映画が、高倉健主演の「君よ憤怒の河を渉れ」(1976年)。観客動員数が8億人に及ぶ社会現象を巻き起こしたという。高倉健の熱烈なファンだったジョン・ウー監督が、オマージュをささげてリメークしたのがサスペンス・アクション「マンハント」だ。

 大手企業の顧問弁護士ドゥ・チウ(チャン・ハンユー)が自宅のベッドで目覚めると、隣に女性秘書の死体が横たわっていた。容疑者として警察に追われるドゥ・チウを、さらに女殺し屋たちが襲いかかる。大阪府警の敏腕刑事・矢村(福山雅治)は、追跡するうちに違和感を覚え、事件の裏に仕組まれた陰謀に、ドゥ・チウとともに立ち向かっていく。

 子どもの頃から日本映画が好きで影響を受けたというジョン・ウー監督。長年の夢だった日本での全編ロケを行った。役者も中国、日本、韓国からキャスティングされ、せりふは英語、日本語、中国語が飛び交う。日本を舞台にしているだけになじんだ映像なのだが、どこか異国のように、スタイリッシュで不思議な感覚に包まれる。

 ハリウッドでも「フェイス/オフ」(1997年)「M:I2」(2000年)などヒットを飛ばし、独特のアクションスタイルで魅了してきた監督は、本作でも水上バイクでの追跡シーンをはじめ二丁拳銃での銃撃戦など、激しくスケールの大きなアクションが見どころだ。そして、監督のシンボルである白い鳩が華麗に舞う。

 ハードなアクションに挑戦している福山雅治の起用を、「以前から注目していたアーティストの一人。人情と正義感に満ちていて矢村像にぴったりだと思った」と語る。容疑者と刑事という対立の立場から、言葉の壁を越えて、友情と絆が生まれていくこともテーマの一つだ。女殺し屋の一人に監督の娘アンジェルス・ウーがふんしているのも驚きだ。
=1時間50分
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(C)2017 SHEPARD DOG, LLC. ALL RIGHTS RESERVED. 

 イラク戦争の米軍爆発物処理班の極限心理を描いた「ハート・ロッカー」(2008年)で、女性として史上初のアカデミー賞監督賞を受賞したキャスリン・ビグロー監督。ウサマ・ビンラディン容疑者捜索に迫る「ゼロ・ダーク・サーティ」(2012年)など、常に骨太な問題作を手掛けるビグロー監督の最新作が、約40人が死亡し、1000人以上の負傷者を出した米史上最大の暴動を追及した「デトロイト」だ。

 1967年7月深夜、デトロイト市警が行った酒場への強引な手入れをきっかけに、不満を抱える黒人たちの暴動が勃発。非常事態が宣言され、軍隊が介入し、戦場のような混乱に向かっていく。

 発生から3日目、モーテルに宿泊中の黒人客が悪ふざけでおもちゃの銃を発砲。狙撃事件と誤認して乗り込んだ白人警官の人種差別による虐待が、惨劇を引き起こす。

 後に裁判となったモーテル事件が物語の核となり、息もできないほどの緊迫した場面が展開。黒人の若者たちと一緒に白人女性2人がいたことが、さらに警官たちの憎悪を駆り立て、容赦ない尋問が暴力とともに行われた。

 運悪くそこに居合わせたのは、地元出身の黒人ボーカルグループのメンバーや、食料品店の警備を担当していた民間警備員。彼らは口を閉ざすことを強いられ、解放された。ビグロー監督は事件の被害者となった3人の証人を見つけ出し、それぞれの視点から事件の全貌と真相を描きだした。

 ドキュメント映像を交えて再現した暴動のシーンは生々しい。まるで昔の西部劇の保安官気取りで、「俺の街」と支配者のように振る舞う白人警官たち。彼らの強引なでっち上げと理不尽な言動は、恐ろしいほどに悪意に満ちている。

 1960年代の人種問題の緊張が、今なお途切れていないことに気づかされる。近年、無抵抗の黒人をいきなり射殺する白人警官の動画が何件も公開され、反発した人々の激しい怒りを呼んでいる。アメリカに根深く巣くう白人至上主義を見事に暴いた衝撃作だ。
    =2時間22分
(2018年1月27日掲載)
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 ペットフード協会の2017年全国犬猫飼育実態調査で、猫の推定飼育数が952万匹余に達し、犬を逆転した。そんな猫の魅力が満載の作品が「猫が教えてくれたこと」である。アメリカで昨年、たった1館でスタートし、瞬く間に130館で拡大公開されるほどのヒットになった。

 「猫の街」として知られるトルコ・イスタンブールに暮らす猫と人間模様を描いたドキュメンタリーだ。生まれも育ちも違う個性あふれる7匹の猫が登場する。地元で調査をしてストーリーを集め、35匹の候補から7匹に絞り込んだという。

 観光名所のガラタ塔を根城にする黄色い虎猫の「サリ」は、生まれたばかりの子猫たちのために、泥棒をしながら餌を調達するたくましい母猫だ。

 「アスラン」はシーフードレストランの近くにすみ、ネズミ退治が得意。「デニス」は市場を訪れる人たちにマスコットのようにかわいがられる社交家。高級レストランから食事を用意してもらえるほどジェントルマンな「デュマン」は、窓をたたく愛らしいしぐさで、客の間でも人気者だ。

 オスマン帝国の時代、貨物船に乗って世界中からイスタンブールにやってきたという猫たちはどことなくエキゾチックだ。イスラム教の人々からは神聖な生き物として考えられているだけに、野良猫だからと追い払うのではなく、隣人のように存在を認められ、街に溶け込んでいる。

 通り道に設置したカメラは、自由気ままに街を歩く彼らの日常と自然な表情を捉える。地上10センチの高さから猫目線で撮影した映像は、まるで自分が猫になって街を歩く気分だ。

 「猫はイスタンブールの魂」と語るジェイダ・トルン監督は、イスタンブール生まれ。11歳でトルコを離れるまで、苦難の多い子ども時代を野良猫と共に過ごしたという思い出が作品の原動力だ。

 かわいらしいだけでなく、人間に寄り添い、時にはしたたかな猫たち。伸び伸びと生きる猫たちの姿は、見る者をほっこりと幸せにしてくれるから不思議だ。
    =1時間19分
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(C) 2016 LES PRODUCTIONS DU TRESOR - WILD BUNCH - ORANGE STUDIO - LES FILMS DU FLEUVE - SIRENA FILM

 芸術の都パリが「ベル・エポック」(良き時代)と呼ばれた華やかな時代。ロートレックやロダンに女神として愛された天才ダンサーがいた。「ザ・ダンサー」はモダンダンスの祖といわれる伝説のダンサー、ロイ・フラーの波乱の半生を描いた実話の映画化だ。

 アメリカ西部の田舎町で育ったマリー・ルイズ・フラー(ソーコ)は、女優になる夢を抱いてニューヨークに移り住む。女優としては芽が出ないものの、踊りで拍手をもらったことをきっかけに、大きな布をまとい、鳥が羽ばたくようなダンスで、観客の心をつかむようになった。

 ダンサー名をロイ・フラーと変え、単身パリへ渡ったロイは、シルクと光の幻想的な踊りで一夜にしてスターに。それは新たな運命と試練の始まりだった。

 ロイの才能を見抜き、恋とも友情ともつかない不思議な絆を結ぶドルセー伯爵役のギャスパー・ウリエルは、繊細で妖しい魅力を放つ。肉体や容貌に自信がなかったロイが嫉妬と羨望を抱く相手、若き日のイサドラ・ダンカンを演じたリリー・ローズ・デップのダンスはしなやかで美しい。

 そして、ダンスを芸術へと究めていくストイックなダンサーになりきったソーコ。エネルギッシュなパフォーマンスに圧倒される。

 暗闇に浮かび上がりチョウのように舞う。はた目には優雅に見えるが、実際は恐るべき過酷な踊りで、一度舞台に立つと2日は踊れないほど、体力も気力も使い果たしたという。

 高く評価されているロイの才能の一つが、照明や色彩を駆使した舞台演出だが、きつい照明が失明の危機を招く。目にダメージを受けながらも挑戦し続け、情熱の炎を身にまとうかのような幻想的なダンスに酔いしれる。ロイの憧れだったバレエの殿堂「パリ・オペラ座」で実際に撮影されたシーンも見どころだ。

 これまであまり知られていないフラーの人生を、3年かけてよみがえらせた脚本と監督を手掛けたステファニー・ディ・ジュースト監督は、本作でセザール賞の監督賞にノミネートされている。

=1時間48分
シネマポイント((電)235・3683)で公開中
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(C) 2016 TWO STRINGS, LLC. All Rights Reserved.

 少年が三味線をかき鳴らすと、命を与えられた折り紙たちが生き生きと動き出す「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」。この日本的な題材の物語がアメリカ生まれであることに、まず驚かされる。

 片目の少年クボは闇の魔力に父親を殺され、追っ手から逃れてきた母親との2人暮らし。村の広場で折り紙の大道芸を披露しながら生計を立てている。

 灯籠流しの日、残りの目を奪おうとする闇の姉妹に見つかり、母親まで殺されてしまう。遺言の「3つの武具」を探す旅に出たクボは、お供に加わったサルとクワガタのハンゾウと、(執)(しつ)(拗)(よう)な追っ手と闘いながら危険な旅を続けるのだった。

 「コララインとボタンの魔女」で知られるスタジオライカが、日本の昔話の世界をストップモーションで描く。本物のパペットやセットを使って、豊かな表情と繊細な動きで、まるで絵巻物のように物語が繰り広げられていく。

 クボの表情は4800万通りに及ぶ。1秒間の映像のために動かすのは24コマ。わずか3秒の撮影に1週間という気の遠くなるような作業は、まさに職人魂だ。少年クボが亡き父親への思いを込めた、灯籠流しの幻想的なシーンでは、一つ一つLEDをともしたという。

 浮世絵を再現したかのような世界。鮮やかな色彩でありながら、日本の「わびさび」の美意識へのこだわり。小布施に深い縁がある北斎の作品が起用されているのも、さすが世界の北斎と鼻が高くなる。特に、三味線の音色で変幻自在に姿を変える折り紙の見事さに、目を奪われる。

 アイデアとクオリティーの高さで、89回アカデミー賞の長編アニメーション賞や視覚効果賞にノミネートされたのをはじめ、ゴールデン・グローブ賞、アニー賞などで27部門受賞という高い評価を受けている。

 黒沢明監督や宮崎駿監督に大きな影響を受けたというトラヴィス・ナイト監督は、8歳の時を皮切りに何度も訪日を重ね、日本の伝統文化や芸術を愛してきたという。日本への限りないリスペクトと愛に満ちたファンタジーだ。
=1時間43分
(2017年12月23日掲載)

長野千石劇場((電)226・7665)で1月6日(土)から公開
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(C) DENIAL FILM, LLC AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2016
 トランプ米大統領が都合の悪いニュースを「フェイクニュースだ」と主張し、アメリカのメディアを非難する言動を度々目にするようになった。それと同じようなことが、およそ20年前、第2次大戦中のナチス・ドイツによるユダヤ人大量虐殺「ホロコースト」を巡っても起きていた。

 「否定と肯定」は「ユダヤ人の大量虐殺は無かった」と主張する歴史家が実際に起こした裁判の行方を描いた法廷ドラマだ。

 アメリカの大学で教えるユダヤ人の歴史学者デボラ・E・リプシュタット(レイチェル・ワイズ)は、ホロコースト否定論者であるイギリスの歴史家デビッド・アービング(ティモシー・スポール)を見過ごすことができず、著書で非難していた。

 アービングがリプシュタットと出版社を名誉(毀)(き)(損)(そん)で提訴したことから、2人の論争はイギリスの法廷に持ち込まれることになった。

 「ヒトラーがユダヤ人の殺害を命じた証拠はあるのか」とうそぶくアービングにあ然とする。訴えられた側に立証責任があるというイギリスの司法制度にも驚かされる。世界が注目した裁判は2000年1月に始まり、4月に判決が下った。裁判に勝つため、弁護団のチームは驚くべき戦術を取る。その緊迫した法廷シーンも見どころだ。

 「穴がなければ、ホロコーストがあったことを証明できない」。ガス室の存在さえも否定するアービングの主張を崩すため、現地調査が行われる。そのシーンは、実際にポーランドのアウシュビッツ強制収容所で撮影された。カメラに映し出される惨劇の傷跡に胸が痛む。

 原作は裁判の記録を描いた「否定と肯定 ホロコーストの真実をめぐる戦い」。自身もユダヤ人をルーツに持つ女優のレイチェル・ワイズは、作者のリプシュタット本人に何度も会い、役作りに打ち込んだという。

 自分の利益のために、歴史の真実をねじ曲げようとすることへの怒り。声高に主張する者に耳を傾ける現代の風潮にも警鐘を鳴らす実話の映画化だ。
2017年12月2日掲載)