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(C) 2018 MEMENTO FILMS PRODUCTION - MORENA FILMS SL - LUCKY RED - FRANCE 3 CINEMA - UNTITLED FILMS A.I.E.

 スペインから国際派スターとなった女優のペネロペ・クルスと男優のハビエル・バルデム。ともにアカデミー賞助演賞を受賞した演技派で、実生活では夫婦という2人の共演で話題になったサスペンス映画が「誰もがそれを知っている」だ。

 妹の結婚式に出席するため、南米アルゼンチンからスペインの田舎に帰省したラウラ(ペネロペ・クルス)に不幸が襲い掛かる。パーティーの最中に娘のイレーネが失踪し、巨額の身代金が要求されたのだ。取り乱すラウラを幼なじみのパコ(ハビエル・バルデム)が支えるが、誘拐事件は思わぬ真相を見せ始める。

 スペインのきらめく太陽と陽気な人々。一族郎党が歌い踊るにぎやかな結婚パーティーのシーンから一転、画面は重い空気に包まれ暗さを増していく。愛する娘を奪われ半狂乱となるラウラも、美しい熟女から一気に憔悴し心痛に顔をゆがめる。

 本人が必死に隠そうとしても、いつしか「誰もが知っている」という小さな村社会の怖さとあきれるほどの息苦しさ。誘拐事件というサスペンスのスタイルをとりながら、底にうごめくのは人間の業だ。過去の遺恨が噴出し、互いに疑いのまなざしを向け、その振る舞いから疑心暗鬼にとらわれてゆく。

 まるで薄皮をはがすかのように登場人物の秘密が暴かれ、真実が明かされるたびに誰もが怪しく見えてきてしまう。この複雑な物語を紡ぐのは「別離」(2011年)と「セールスマン」(16年)で2度のアカデミー賞外国語映画賞を受賞したイランの名匠、アスガー・ファルハディ監督。オリジナルの脚本を自ら執筆し映像化する監督だが、15年前にスペインを旅した時に見かけた行方不明の子どもたちを探す写真から着想し、歳月をかけて脚本を書き上げたものだという。主演の2人は脚本の段階から当て書きしたというだけに、揺れる細やかな感情が見事だ。緻密な構成と巧みな展開が、ミステリータッチで濃密な人間ドラマを生み出した。=2時間13分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野ロキシー((電)232・3016)で公開中
(2019年7月13日掲載)
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(C)2019 LOTTE ENTERTAINMENT & DEXTER STUDIOS All Rights Reserved.

 人は亡くなると、どこに行くのか。「神と共に」は、死後の世界を斬新な映像とスタイリッシュなアクションを融合させて描いた痛快なエンターテインメント映画だ。

 消防士のキムは、高層住宅で人命救助中に命綱が切れ、転落死してしまう。亡者となった彼の前に現れたのは、冥界からやってきた3人の使徒。49日間のうちに7つの地獄で裁判を受け、無罪で通過すると、現世に生まれ変われるというのだ。

 生前、善き行いをしてきたキムは、転生の資格があると思われていたが、手ごわい裁判長たちの前で思いがけない真実が暴かれていく。

 過去千年間で47人の亡者を転生させた実績を誇る冥界のスーパー弁護士、カンニム役をハ・ジョンウ。武術にたけた警護役のヘウォンメクをチュ・ジフン。気弱で純真な補助弁護士のドクチュン役をキム・ヒャンギ。3人がキムを導く使徒に扮(ふん)している。

 ハリウッド映画「マトリックス」のようにロングコートを翻し、地獄の鬼や魔物、怨霊たちを剣でなぎ倒すスピード感あふれる壮絶なアクションは、すごいの一言。CGとVFXで描いた荒涼とした地獄のスケールの大きさにも圧倒される。

 天輪地獄の閻魔(えんま)大王をはじめ、殺人、怠惰、うそ、不義、裏切り、暴力と、7つの地獄の大王たちのキャラクターとビジュアルが何とも個性的だ。

 人間はなぜ罪を犯すのか。第一章から第二章へと幾つものエピソードを積み重ねるうちに、3人の使徒たちの思いがけない前世と因縁が明かされていく。原作は、韓国で伝説と称されるほど人気を集めたウェブコミック。その実写版だ。

 オープニングの地獄絵図、三途(さんず)の川や針の山など、日本人になじみ深い冥土の世界と東洋的な生死感が共感を呼ぶ。2部作の長編だが、ハイテンションで全く飽きさせない。

 第一章は韓国映画史上歴代2位、第二章も歴代10位の大ヒットを記録したというのもうなずける。

(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
 長野ロキシー((電)232・3016)で公開
 「第一章:罪と罰」=2時間20分(7月6日(土)から26日(金)まで)
 「第二章:因と縁」=2時間21分(7月20日(土)から8月9日(金)まで)
(2019年6月29日掲載)
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(C)2018 Gaumont / La Boetie Films / TF1 Films Production / Pour Toi Public

 もし、恋をした相手が障害者だったら...。「パリ、嘘(うそ)つきな恋」は、フランスで大ヒットした「最強のふたり」(2011年)と同じ製作会社が手掛けたコメディータッチのラブストーリーだ。

 ビジネスマンとして成功し、リッチな独身生活を謳歌(おうか)しているジョスラン(フランク・デュボスク)は、若い美人に目がない軽薄な男。偶然出会った美女ジュリーの気を引くために、車椅子の障害者だと嘘をついてしまう。

 ジュリーから紹介された姉のフロランス(アレクサンドラ・ラミー)は、事故が原因で、車椅子で生活しながら、スポーツを楽しみ、バイオリニストとして世界中を演奏旅行する快活な女性だった。常に新鮮な一面を見せるフロランスに、ジョスランはどんどん引かれるが、自分のついた嘘に次第に追い詰められていく。

 ジョスラン役のデュボスクはフランスの国民的な人気コメディアン。本作では、主演だけでなく脚本、そして監督も初めて手掛けている。きっかけは、高齢になった母親が車椅子を使い始め、障害者が抱える問題に自身が直面したことだったという。

 障害を笑いにすることで非難されかねないリスクをものともせず、コメディアンならではの視点で軽妙な笑いに変えていく。フロランスを知ることで変化するさまは、彼自身が現代社会の目のようだ。

 真実を告白できず車椅子で行動せざるを得なくなり、自分の首を絞めてしまう滑稽さ。優雅な独身貴族を楽しんでいるはずのジョスランのほうが、なぜか惨めに見えそうなほど、フロランスは大人の女性として鮮やかな輝きを放つ。

 聡明(そうめい)で魅力的なフロランスを演じたラミーは、代役ではなく、彼女自身が車椅子テニスをプレー。優れた芸術作品に贈られるクリスタル・グローブ賞・コメディー部門で主演女優賞を受賞している。

 誰もが年を重ねて、老い衰える。もしかしたら歩けなくなるかもしれない。そんな時にフロランスのように振る舞えたらと思う。差別や偏見などの社会問題をテーマにしながらも、ウイットに富んだ小粋な愛の物語に仕上げる手腕はさすが愛の国フランスだ。

=1時間48分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野ロキシー((電)232・3016)で6月29日(土)から公開
(2019年6月22日掲載)
 「美女と野獣」「ダンボ」など名作アニメーションを次々と実写化しているディズニーの最新作が「アラジン」。貧しい青年アラジンが、3つの願いをかなえてくれるランプの魔人ジーニーと冒険を繰り広げるアドベンチャー・ファンタジーの実写版だ。

 アラジン(メナ・マスード)は、お忍びで市場に出掛けたジャスミン姫(ナオミ・スコット)を助けたために、国を狙う邪悪な大臣に捕えられてしまう。「ダイヤモンドの原石」のような清らかな心を持つ者しか入ることができない洞窟に連れて行かれたアラジンは、偶然手にしたランプから現れた魔人ジーニー(ウィル・スミス)に助けられて、王子に大変身。身分違いの恋をかなえようとするのだが...。

 オリジナルから抜け出たようなキャラクターたちや、ミュージカル映画としての音楽の素晴らしさは、アニメ版と変わらない。アカデミー賞最優秀歌唱曲賞に輝いた名曲「ホール・ニュー・ワールド」のアラン・メンケンとともに、「ラ・ラ・ランド」や「グレイテスト・ショーマン」のチームが参加し、新曲も手掛けている。

 さらに、ラッパーとしても活躍するウィル・スミスが、ジーニーの魅力を一段とアップ。おなじみの「フレンド・ライク・ミー」などを、陽気でハッピーな青い魔人のジーニーが変幻自在に歌い、踊るシーンは絶品だ。吹き替え版も見事だが、ウィル・スミスのノリの良さも字幕版で楽しんでほしい。

 最近のディズニー映画の傾向は「強いプリンセス」。白馬の王子さまを待つのではなく、自ら幸せを勝ち取ろうとする毅然としたプリンセスだ。「女はスルタン(王)になれない」という決まりに反発するジャスミン姫も、民を愛する存在を目指し、真実の愛で結ばれることを夢見る現代的な心を持つ女性だ。

 アクションシーンに手腕を発揮する「シャーロック・ホームズ」シリーズのガイ・リッチー監督だけに、逃走劇や魔法のじゅうたんで飛び回るシーンのテンポの良さはスピード感にあふれている。

 きらびやかで美しい映像と夢のようなロマンスは、まさにアラビアンナイトだ。
=2時間8分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野グランドシネマズ((電)233・3415)で公開中
(2019年6月15日掲載)
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(C)Beijing Galloping Horse ・ All Rights Reserved.

 「男たちの挽歌」シリーズや「レッドクリフ」(2008年)など、アクションや武侠映画で知られるジョン・ウー監督が、日中戦争後の混乱の時代を、壮大なスケールで描いた「ザ・クロッシング」。蔣介石を指導者とする国民党と、毛沢東率いる共産党との内戦で引き裂かれた男女3組の交差(クロッシング)する愛と運命の大河ドラマだ。

 旧日本軍撤退後、中国人同士が戦闘を繰り広げた国共内戦が全土に広がった。中国から台湾に逃れる人々が、上海の港に押し寄せていた。

 その中には、出兵したまま行方不明の恋人を探すユイ・チェン(チャン・ツィイー)、最前線で死を覚悟した国民党の将校レイ・イーファン(ホアン・シャオミン)から、台湾に住む妻に日記を託された通信兵トンの姿があった。

 日本軍の軍医として中国本土に従軍していた台湾人医師イェン・ザークン(金城武)もいた。イェンは日本統治下の台湾で育ち、幼なじみの雅子(長沢まさみ)と愛し合った悲しい思い出を胸に抱えていた。

 動乱の歴史に翻弄されながらも、愛を貫こうとする男と女。パート1では、すれ違った人々が、どんな運命をたどるのか。パート2では、中国大陸から台湾に向かった客船太平輪が衝突、沈没し、およそ千人が犠牲になった1949年の海難事故を舞台に、「タイタニック」をほうふつとさせるサバイバルが描かれる。

 ジョン・ウー監督は、史実を基に、中国と台湾をつなぐ映画を志したという。繊細な人間ドラマとともに、見どころの一つが最前線の戦場のシーン。実写にこだわって撮影された砲撃や爆破による炎と爆音の激しさが目を奪う。華麗でスタイリッシュな映像は影を潜め、命を落とし累々と折り重なる兵士の姿が、戦争の残酷さを映し出す。

 とはいえ、ジョン・ウー監督のトレードマークとも言える白いハトが羽ばたくシーンは健在で、にやりとさせられた。
=パート1 2時間9分、パート2 2時間6分
 (日本映画ペンクラブ会員、ライター)
 長野千石劇場((電)226・7665)で、6月27日(木)までパート1を公開。パート2は6月14日(金)から7月4日(木)まで公開予定。
(2019年6月8日掲載)
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(C)2019『長いお別れ』製作委員会 (C)中島京子/文藝春秋

 直木賞作家の中島京子さんが、認知症の父親と暮らした自身の体験をもとに書き上げた「長いお別れ」。第5回日本医療小説大賞を受賞したこの小説にほれ込んで、「湯を沸かすほどの熱い愛」(2016年)で日本アカデミー賞を受賞した中野量太監督が、脚本も手掛けて映画化した。

 70歳を迎えた父昇平(山崎努)の誕生日。母曜子(松原智恵子)に招集され、夫の転勤で息子と共にアメリカで暮らしている長女の麻里(竹内結子)、フードコーディネーターでカフェを開く夢とうまくいかない恋人との関係に悩む次女の芙美(蒼井優)が、東家に顔をそろえた。

 姉妹に母が告げたのは、昇平の認知症発症だった。老夫婦だけではままならない自宅介護の現状に、それまで親から離れていた娘たちも向き合わざるを得なくなる。

 徐々に進行する認知症のため、ゆっくりと確実に壊れていく日常。中学校長を務め上げた教育者としての厳格な表情から一転。不安げな途方に暮れた顔に変わる。かと思えば、穏やかな父親に戻る。過去の記憶の中にさまよう姿が切ない。微妙な変化を演じ分ける山崎努の名演に圧倒される。

 小さな出来事を丁寧に紡いで、家族たちの7年間が描かれていく。何かをきっかけに急変する言動に振り回されながらも、昇平に寄せる家族の愛情にほろっとさせられる。

 記憶の混乱でかみ合わない会話やすれ違いが生み出すおかしさ。つらいだけでなく、ユーモアを込めたエピソードに、ついつい笑いながらも、人生へのいとおしさと寂しさがにじみ出る。原作の世界観を体現する女優たちの繊細な演技も実に素晴らしい。

 認知症を患い少しずつ記憶を失い、ゆっくり人生から遠ざかっていく様子から、アメリカでは「ロング グッドバイ(長いお別れ)」と表現するという。

 高齢化が進み長寿社会となった日本では、認知症が人ごとではなくなった。もし家族が、そして自分が発症したらどう向き合うのか。いつかは訪れる永遠の別れのその日まで、優しい絆に寄り添いたくなる家族の物語だ。
=2時間7分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
 長野グランドシネマズ((電)233・3415)で5月31日(金)から公開
(2019年5月25日掲載)
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(C)かわぐちかいじ・惠谷治・小学館/『空母いぶき』フィルムパートナーズ

 もし、日本が武装攻撃を受けたら国はどう動くのか。「空母いぶき」は、漫画家かわぐちかいじさん原作の人気コミックの実写映画化だ。

 クリスマスを控えてにぎわう近未来の日本。波留間群島初島に国籍不明の武装集団が上陸して占拠した―という一報が届く。海上自衛隊の出動命令を受け、航海訓練中の第5護衛隊群が現場海域に向かった。戦後初の航空機搭載型護衛艦「いぶき」は、計画段階から国論を二分してきた戦艦だった。

 だが、敵潜水艦から突然ミサイル攻撃を受けただけでなく、空母艦隊まで姿を現し、想定を超えた戦闘状態に追い込まれてしまう。

 不気味なほどの笑みを浮かべ、武力行使を主張する艦長の秋津(西島秀俊)。専守防衛を唱えて対立する副長の新波(佐々木蔵之介)。自分の信念を貫こうとする2人の自衛官の息詰まるような攻防が描き出される。任務を遂行するために命を懸ける人たちの緊迫感あふれる姿も大きな見どころだ。

 いきり立つ政治家たちを前に苦渋の決断を迫られる首相の垂水(佐藤浩市)。偶然、取材で乗艦していたネットニュース社の記者。幾つもの目線で運命の一日が描かれていく。

 領有権の問題に絡んで、他国による日本領海への侵入が繰り返されている現実があるだけに、架空の物語とは言い切れない怖さがある。2001年12月には、鹿児島県の奄美大島沖で海上保安庁の巡視船が、不審船との間で銃撃戦になったこともある。

 政府は昨年12月に閣議決定した「防衛計画の大綱」で、海上自衛隊の護衛艦「いずも」型2隻の改修を明記。最新の戦闘機を載せることができるようになる事実上の空母であり、専守防衛の範囲を超える―という懸念が生じている。

 上皇さまは昨年12月、天皇陛下在位中の誕生日に当たっての記者会見で「平成が戦争のない時代として終わろうとしていることに、心から安堵(あんど)している」と述べられた。今の平和は当たり前のことではなく、多くの犠牲の上に成り立っていることに気付かされた。

 戦争を繰り返さないために、私たちはどうすればよいのか。さまざまな問題を提起した見応え十分の人間ドラマとなった。

=2時間14分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野グランドシネマズ((電)233・3415)で5月24日(金)から公開
(2019年5月18日掲載)
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(C)2018 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.

 1970年代のアメリカ。男女平等の権利を求めて法廷に立った女性弁護士がいた。「ビリーブ 未来への大逆転」は、多数の女性差別撤廃訴訟を勝訴に導いたルース・ギンズバーグの実話の映画化だ。

 ルース(フェリシティ・ジョーンズ)は大学で知り合ったマーティン・ギンズバーグ(アーミー・ハマー)と結婚し、生まれたばかりの娘を抱えながら共にハーバード大法科大学院に入学する。さらに移籍したコロンビア大法科大学院を首席で卒業しながら、女性だからという理由で就職はままならず、男女差別の厚い壁に突き当たる。

 当時、ハーバードの法科大学院で女性が入学を許可されたのはわずか9人。女子トイレもなく、彼女たちに投げかけられた言葉は「男性の席を奪ってまで、なぜ入学したのだ」という女性蔑視の冷ややかな嫌みだった。

 現代では当たり前のように男性が家事や育児を手助けしているが、女性は家にいるものとされた時代。自分名義のカードも持てず、仕事で残業もできなかったという。先進国アメリカとは思えないほど、女性の権利が認められていなかった。

 日本でも先日、東京大の入学式で、社会学者の上野千鶴子名誉教授が、性差別による大学の不正入試問題に言及し、学生たちを激励したことが関心を呼んだ。

 貧しいユダヤ人の家庭に生まれ、勉強もままならなかったというルースが、弁護士、法律学者、判事としていかにして苦難を乗り越えたのか。もちろん、妻を理解し、支える夫の献身なくして語れない夫婦の愛の物語でもあるのだ。

 「仕事も勉強も諦めない」。あくなき向上心で、自分の能力を生かせる場所にたどり着いた女性の半生を描いたのは、同じく女性監督としてハリウッドで実績を積み重ねてきたミミ・レダー監督だ。

 1993年にアメリカ史上2人目となる女性最高裁判事に任命され、86歳になった今も現役としてその職を務めるルース。先駆者として彼女の強い信念が時代を変え、女性たちを導く存在となった。彼女の勇気に奮い立たされる心地良さが、この作品にはある。

=2時間
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野千石劇場((電)226・7665)で公開中
(2019年4月27日掲載)
(C) Parallel Films (Storm) Limited / Juliette Films SA / Parallel (Storm) Limited / The British Film Institute 2017

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 SF小説のジャンルに大きな影響を与えたフランケンシュタイン。1818年に英国で出版された「フランケンシュタイン」の作者が女性だということを、どれくらいの人が知っているだろうか。「メアリーの総て」は、18歳で傑作を書き上げた英女流小説家メアリー・シェリーの波乱の人生を描いた物語だ。

 母親が眠る静かな墓地でペンを走らす風変わりな少女メアリー(エル・ファニング)。思想家だった母を亡くし、継母と折り合いが悪い日々を過ごしていた。

 見かねた父親が送り出したスコットランドの友人の屋敷で、「異端の天才詩人」と評判のパーシー・シェリー(ダグラス・ブース)と運命の出会いが待っていた。妻子がいると知らぬまま駆け落ちしたメアリーに、苦難が待ち受けていた。

 放蕩にふける生活に、借金取りから夜逃げ、妊娠、出産、そして子どもの死...と、作家を夢見る17歳の少女の身に次々と降りかかる悲劇が、創作への源になっていく。

 社交界の寵児バイロン卿の提案で怪奇譚を書くことになったメアリーが生み出したモンスターは、創造主のフランケンシュタイン博士に裏切られ、孤独な旅を続ける。その悲しい姿は自由と愛する者との絆を求め、さまようメアリーの旅路と重なるようだ。

 当時は女性の名前では出版できないと断られたため、やむなく夫の序文で出版され、彼女の存在は隠されたままだった。

 子役として多くの作品に出演してきたエル・ファニングが、毅然として自立していく一人の女性を体現する大人の女優に成長した姿に、感動してしまった。

 監督は、「少女は自転車にのって」(2012年)がアカデミー賞外国語映画賞候補として出品されて注目を集めたサウジアラビア初の女性監督ハイファ・マンスール。メアリーの時代と同じように、いまだに封建的なサウジ社会でアーティストとしてもがき続けたマンスール監督だからこそ描けたメアリーの戦いと葛藤がある。
=2時間1分

(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野千石劇場((電)226・7665)で4月26日(金)から公開
(2019年4月20日掲載)
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(C)2018- Maneki Films-Wild Bunch-Arches Films-Gapbusters - 20 Steps Productions - RTBF (Television belge)

 過激派組織「イスラム国」(IS)の攻撃で平和を奪われた人々。イラクでは、政府が全土解放を宣言したものの、今も恐怖が暗い影を落としている。「バハールの涙」は、ISに戦いを挑んだクルド人女性と、女性戦場ジャーナリストの実話が基だ。

 戦場で片目を失ったフランスのジャーナリスト、マチルド(エマニュエル・ベルコ)は、クルド人自治区で女性戦闘部隊「太陽の女たち」のリーダー、バハール(ゴルシフテ・ファラハニ)と出会う。なぜ女性たちが前線に立つのか、取材を続けるうちに、バハールの壮絶な過去を知る。

 2014年8月、イラク北部の山岳地帯の村々がISに襲われた。弁護士として家族と幸せに暮らしていたバハールは、帰省していた故郷で襲撃に巻き込まれ、ISに捕らわれてしまう。夫を殺され、息子と引き離されたバハールは、奴隷として売られ失意の日々を送るが、息子を取り戻すため、脱出して戦闘員になった。

 脚本を手掛けたエヴァ・ウッソン監督は自ら戦地と難民キャンプに赴き、逃げ出した女性たちの体験と証言を基に、主人公のバハールを生み出した。バハールと同じように性的奴隷を強制された被害者で、人身売買の惨状と救済を世界に訴え続けた人権活動家ナディア・ムラドさんは2018年に、ノーベル平和賞を受賞している。

 カメラで真実を伝えようとするマチルドも、片目を失明しながら、世界各地の紛争を報道し続けた実在の女性ジャーナリストがモデルになっている。

 ISは、成人男性を皆殺しにし、拉致した子どもたちに3歳から人を殺すことを学ばせて聖戦主義者に仕立てるという残虐行為をしていた。

 愛する人を守るため、そして自由のために武器をとって立ち上がった女たち。過酷な過去を乗り越え、誇り高く生きる女たちの何とりりしいことか。スクリーンにはこれまでに見たことのない女たちの姿がある。愛のために戦う女は悲しくて、美しい。
=1時間51分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
長野ロキシー((電)232・3016)で3月30日(土)から公開

(2019年3月9日掲載)