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(C) DENIAL FILM, LLC AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2016
 トランプ米大統領が都合の悪いニュースを「フェイクニュースだ」と主張し、アメリカのメディアを非難する言動を度々目にするようになった。それと同じようなことが、およそ20年前、第2次大戦中のナチス・ドイツによるユダヤ人大量虐殺「ホロコースト」を巡っても起きていた。

 「否定と肯定」は「ユダヤ人の大量虐殺は無かった」と主張する歴史家が実際に起こした裁判の行方を描いた法廷ドラマだ。

 アメリカの大学で教えるユダヤ人の歴史学者デボラ・E・リプシュタット(レイチェル・ワイズ)は、ホロコースト否定論者であるイギリスの歴史家デビッド・アービング(ティモシー・スポール)を見過ごすことができず、著書で非難していた。

 アービングがリプシュタットと出版社を名誉(毀)(き)(損)(そん)で提訴したことから、2人の論争はイギリスの法廷に持ち込まれることになった。

 「ヒトラーがユダヤ人の殺害を命じた証拠はあるのか」とうそぶくアービングにあ然とする。訴えられた側に立証責任があるというイギリスの司法制度にも驚かされる。世界が注目した裁判は2000年1月に始まり、4月に判決が下った。裁判に勝つため、弁護団のチームは驚くべき戦術を取る。その緊迫した法廷シーンも見どころだ。

 「穴がなければ、ホロコーストがあったことを証明できない」。ガス室の存在さえも否定するアービングの主張を崩すため、現地調査が行われる。そのシーンは、実際にポーランドのアウシュビッツ強制収容所で撮影された。カメラに映し出される惨劇の傷跡に胸が痛む。

 原作は裁判の記録を描いた「否定と肯定 ホロコーストの真実をめぐる戦い」。自身もユダヤ人をルーツに持つ女優のレイチェル・ワイズは、作者のリプシュタット本人に何度も会い、役作りに打ち込んだという。

 自分の利益のために、歴史の真実をねじ曲げようとすることへの怒り。声高に主張する者に耳を傾ける現代の風潮にも警鐘を鳴らす実話の映画化だ。
2017年12月2日掲載)
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(c) Incarcerated Industries Inc. All Rights Reserved.
 犯罪のスペシャリストがチームを組んで華麗に強奪する「オーシャンズ11」(2001年)シリーズ3部作がヒットしたスティーブン・ソダーバーグ監督。4年前に映画界から引退宣言をしたソダーバーグ監督が脚本の面白さにひかれて、監督復帰作に選んだのが、「ローガン・ラッキー」だ。

 炭鉱作業員のジミー・ローガン(チャイニング・テイタム)は妻に愛想をつかされて家庭は崩壊し、足が不自由なことで職場を首になるという不運続き。弟のクライドもイラク戦争で片手を失い、兄弟そろっての運の悪さに「ローガンののろい」とやゆされる。

 ジンクスをはね返すために思いついたのが、全米最大のカーレース中にばく大な売上金を盗み出す強盗だった。

 金庫の爆破役に天才的な爆弾技術を持つジョー(ダニエル・クレイグ)を刑務所から脱獄させ、鮮やかに強奪を決めるはずが、素人の寄せ集めだけに、アクシデントが続発。果たして人生の一発逆転を狙った作戦は成功するのか。

 銃撃や殺りくシーンを入れない監督のこだわりは健在。舞台となるサーキットで疾走する車のスピード感さながらに、ストーリー展開のテンポの良さに、ソダーバーグ監督らしい演出が光る。

 「マジックマイク」(12年)で監督とコンビを組んだチャイニング・テイタムをはじめ、007役で知られるダニエル・クレイグは金髪に入れ墨の爆弾犯というワイルドな悪役に変身。さらに、女優陣は、兄弟の妹メリー役にエルビス・プレスリーの孫娘ライリー・キーオ、ジミーの元妻にふんするのはケィティ・ホームズ、兄弟に疑惑の目を向ける有能なFBI捜査官に2度のオスカーに輝く演技派ヒラリー・スワンクと、はらはらさせる役どころで登場する。これまでとひと味違う役者たちの演技も見どころだ。

 強盗は悪いことだが、どこか憎めない犯人たちを応援したくなるのが不思議だ。悪いやつらの鼻をあかしたオーシャンとは違い、兄弟が闘うのは自分たちの人生。家族の絆の強さにもほろっとさせられる痛快クライム・エンターテインメントだ。
   =1時間59分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
 「炎上とは、インターネット
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上に非難や中傷が集中すること」。10年ぶりに改訂される広辞苑に、IT関連の用語がいくつも採用されたり、炎上のように新しい意味が付記されたりする。今や誰もが手軽にラインでつながるネット社会。「ザ・サークル」はネット社会の脅威をあぶりだす問題作だ。

 地元の田舎町で派遣社員として働くメイ(エマ・ワトソン)は、大学時代の親友の紹介で世界最大のSNS企業〈サークル〉に採用された。一流企業で福祉も完璧。社員たちも有能で、刺激的な職場に圧倒されながら、仕事に奮闘し、次第に頭角を現す。だが、炎上を体験したことで、プライバシーがなくなっていくことに違和感をぬぐえない。

 ある事件をきっかけに経営者ベイリー(トム・ハンクス)の目に留まったメイは、新たに開発された超小型カメラによるサービス「シー・チェンジ」のモデルケースに抜てきされる。生活の全てをカメラの前にさらけだしたメイは、1千万人を超すフォロワーを獲得し、人気者になるが、思いがけない事件に巻き込まれていく。

 スクリーン全体が、まるでSNSの画面のように映し出される。フォロワーからツィートが書き込まれ、「いいね」と賛同される心地よさ。だが、ひとたび批判が拡散すると、残酷なまでに悪意をまき散らすネットの怖さを見事に伝えるシーンだ。

 名優トム・ハンクスがふんするのは、スティーブ・ジョブズばりのカリスマCEO。野望を隠しながら、巧みな弁舌で人々を魅了し、洗脳していく。

 原作はピュリツァー賞にもノミネートされた作家ディブ・エガーズのベストセラー小説「ザ・サークル」。人々を結びつけるシェアが、ひとたび監視という言葉に置き換わった時に起きる閉塞感。すぐ先に待ち受けている未来に、どう向き合えばいいのか。巨大な監視システムに匹敵するネット社会がもたらす脅威に警鐘を鳴らす社会派エンターテインメントだ。

 メイの父親役を演じたビル・パクストンは今年2月に急逝し、この作品が遺作となった。
    =1時間50分
(2017年11月11日掲載)
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 SF映画の金字塔として高い支持を得たリドリー・スコット監督の「ブレードランナー」(1982年)。人口過密と酸性雨で荒廃した2019年の地球を舞台に、人造人間レプリカントを追跡する捜査官ブレードランナーの物語は、後の作品にも大きな影響を与えた。「ブレードランナー2049」は、その30年後の未来を描いた続編だ。

 地球規模の飢餓を救った企業家ウォレスは、人造人間を開発したタイレル社の資産を買い取り、従順な新型レプリカントの製造を開始していた。

 ブレードランナーのK(ライアン・ゴズリング)は、自身も同じレプリカントでありながら、寿命制限のない旧型を追跡して処分する任務を、粛々とこなす孤独な男。埋葬された骨の発見から陰謀に巻き込まれたKは、30年前にこつぜんと姿を消したブレードランナー、デッカード(ハリソン・フォード)の存在にたどり着く。

 人間に代わる使い捨ての労働力として開発されたレプリカントを「匹」と数え、「もどき」という侮辱の言葉を投げつける人間たち。前作では4年限定の寿命に疑問を持ち、植民地の惑星から地球へ逃亡したレプリカントとブレードランナーとの戦いが描かれた。

 SFアクションでありながら、生命とは何か、人間性とは何かを問い掛ける(深)(しん)(淵)(えん)なテーマは、ほかの作品とは一線を画すエモーショナルなストーリーだった。

 自分の記憶は本物か、それとも植え付けられたものなのか。捜査上でKが抱く謎に隠された真実。人生とは記憶の積み重ねなのだと改めて気付かせてくれる。

 地球環境が崩壊しソーラーパネルで埋め尽くされた大地、空間を利用した広告など、未来を予見した斬新な映像は現実のものに近づいている。日本語の看板や会話など東洋的なビジュアルも健在で、ファンにはうれしい。

 今回は製作に回ったリドリー・スコット監督の跡を継いで、作品の壮大な世界観をあますことなく映像化したのは、「メッセージ」でアカデミー賞監督賞にノミネートされたドゥニ・ビルヌーブ監督。前作のラストから納得の見事な続編となった。
    =2時間43分
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(C) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

 ロシアとの宇宙開発競争にアメリカが奔走していた1961年。米航空宇宙局(NASA)にはコンピューター並みの能力を持った天才女性数学者たちがいた。「ドリーム」は、これまで知られることがなかった実在の3人の黒人女性にスポットを当てた人間ドラマだ。

 数学の天才少女だったキャサリン(タラジ・P・ヘンソン)は、NASAラングレー研究所で計算手として働いている。黒人女性チームのリーダー、ドロシー(オクタヴィア・スペンサー)とエンジニアを志すメアリー(ジャネール・モネイ)と支えあい、国家に貢献すべく奮闘していた。

 アル・ハリソン(ケビン・コスナー)率いる宇宙特別研究本部に、キャサリンは黒人女性として初めて配属されるが、トイレは白人用のみで、別棟の非白人用まで必死に駆け込む日々。オール白人男性の職場で、冷たい視線と劣悪なオフィス環境に耐えながら、次第に才能が認められていく。

 渡される書類は俗にいう「のり弁」で、肝心なところは黒く塗りつぶされている。できるものならやってみろという嫌がらせそのものだが、瞬時に正しい答えを導き出すキャサリンのとてつもない才能に、男たちがあぜんとする。胸のすくシーンだ。

 新たに導入されるIBMコンピューターの脅威を察知したドロシーは、内緒でプログラマーを養成し、時代の変化に食い付いていく。人種問題など、社会派のテーマではあるけれど、宇宙開発の歴史とお仕事ドラマとしても実に見応えがある。

 「ドリーム NASAを支えた名もなき計算手たち」が原作。人種差別が色濃い時代に、いかに3人がスキルを磨き、己の居場所を切り開いていくか、ステップアップする姿が爽快に描かれる。白人女性でさえ能力を軽んじられる男性優位の時代でもあった。

 バックに流れる音楽やファッション、時代を見事に切り取った映像は、アカデミー賞作品賞、助演女優賞、脚色賞にノミネート。夢を諦めず、不屈の闘志で闘い抜いたヒロインたちの物語が、女性映画批評家協会賞でベスト女性映画賞を受賞したのもうなずける。
    =2時間7分
(2017年10月21日掲載)
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(C) ORIGAMI FILMS / BEE FILMS / DAVIS FILMS / SCOPE PICTURES / FRANCE 2 CINEMA / CINEMA RHONE-ALPES / CE QUI ME MEUT - 2015

 1943年、ナチスドイツの支配下にあったフランスからスイスへ逃れ、生き延びたユダヤ人の子どもたちがいた。「少女ファニーと運命の旅」は、現在、イスラエルに住むファニー・ベン=アミが体験をつづった自伝の映画化だ。

 13歳の少女ファニー(レオニー・スーショー)は両親と別れ、幼い2人の妹と共に、支援組織が運営するフランスの片田舎の児童施設でひそかに暮らしていた。心ない密告で危険が迫り、責任者のマダム・フォーマン(セシル・ドゥ・フランス)は、子どもたちをスイスへ逃がそうと決意する。

 だが、ドイツ軍の厳しい取り締まりでマダムとはぐれ、9人の子どもたちだけでスイスの国境を目指す過酷な旅が始まった。
 勇気ある逃亡劇を再現するのは、千人近くの子どもたちから選ばれた9人の少年少女。死の恐怖と空腹を乗り越え、助け合いながら絆を深めていく。幾度も起きるピンチのなかでも、子どもらしい無邪気な瞬間をとらえた映像が心に残る。

 4歳の少女が母親の死に向き合う姿を描いた感動作「ポネット」(1996年)の名匠ジャック・ドワイヨン監督の娘、ローラ・ドワイヨンが、父親譲りの見事な視点で監督を務めている。

 「ドイツ人には絶対捕まらない―という固い決意があればこそ、実現できた」「今また、あの時代と似た危険を感じるから映画化を許可した」とファニー・ベン=アミは語る。

 実際には17人もの子どもたちを率いていたというから驚きだ。仲間が病気になり死に直面した時に、気持ちが折れそうになったそうだが、13歳の少女が背負うには、その荷はあまりにも重すぎる。

 「ユダヤ人をやめれば」という幼い妹の無邪気な問い掛けに、言葉を失う。大人だけでなく子どもたちにも、この悲惨な歴史があったことを知ってほしいと思う。

 今も世界のどこかで起きている紛争で命を脅かされている子どもたちがいる。大人たちが起こした戦争の犠牲になるのは罪のない子どもたち。二度と笑顔を奪ってはならないとしみじみ思う。
    =1時間36分
(10月14日掲載)
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(C)2016「幼な子われらに生まれ」製作委員会
 「幼な子われらに生まれ」は、直木賞作家重松清が21年前に書いた小説が原作である。荒井晴彦の脚本、三島有紀子監督によって家族の物語として映画化された。

 商社マンの田中信(浅野忠信)とバツイチ2人の子持ちの奈苗(田中麗奈)は再婚同士。キャリア志向の信の前妻、友佳(寺島しのぶ)との間に生まれた小学6年の娘と定期的に会う時間を大切にしている。

 仕事よりも家庭を優先する信は出向を命じられ、エリートサラリーマンから一転、子会社の倉庫係に左遷され、
プライドを傷つけられながら日々働く毎日だ。

 しかも、奈苗の妊娠が発覚し、多感な年頃になった妻の連れ子から「本当の父親に会いたい」と責められる。仕方なく父親の沢田(宮藤官九郎)に会いにいくが、DVで家族を捨てた沢田は、くずのような男だ。

 妻の妊娠で異母きょうだいが生まれることへの戸惑いと、徐々に重荷が増える生活に息苦しさを覚える信。平穏な暮らしに見えながら、新たな家族が生まれることで、つぎはぎだらけの家族の間にさざ波が立ち始める。

 信が出会うのは元妻の夫と、今の妻の元夫。別れても慕ってくれる実の娘と、血のつながらない懐かない娘の対極的な反応に迷いながらも、良き父親であろうとする浅野忠信の繊細な演技が印象的だ。家庭的だが、男に依存するタイプの妻を演じた田中麗奈のべったり感は、女性から見ても身につまされる。

 頭で分かっていても、感情がぶつかりあい傷つけあってしまう、人間という存在。そんな不器用な大人たちの姿に魅力を感じたという三島監督は、脚本に書かれたせりふだけでなく、役者たちのエチュード、即興の演技から感情をくみ取り、多くのシーンが生まれたと語る。そんな役者たちの演技も見どころだ。

 父性とは、母性とは何なのか。血はつながっていなくても親子になれるのか。多様化する現代の家族の絆のあり方をリアルに描いた物語は、モントリオール世界映画祭コンペティション部門で審査員特別グランプリを受賞した。
(C)2016 STX Financing, LLC.All Rights Reserved.

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 トランプ米大統領が不法移民阻止対策として、メキシコとの「国境の壁」建設を主張し続けている。今、国境地帯では何が起こっているのか。「ノー・エスケープ 自由への国境」は、より良い人生を求めて自由の国アメリカを目指す移民たちの姿を、メキシコ側から描いたサバイバル映画だ。

 モイセス(ガエル・ガルシア・ベルナル)は、アメリカにいる妻と息子に会うため、不法越境をしようとしていた。しかし、エンジントラブルで車を降ろされ、ほかのメキシコ人たちと徒歩で砂漠を越えることになってしまう。

 摂氏50度の砂漠に照りつける太陽、そして突然の銃弾が彼らに襲いかかる。不法に入国してくる人たちを待ち受け、排除しようとする白人サム(ジェフリー・ディーン・モーガン)が放つ銃弾に次々と倒れる移民たち。過酷な逃走が始まった。

 ラストまで容赦ない追跡劇は、呼吸困難になりそうなほど、緊迫感に満ちている。サムの相棒として移民たちを追跡するのは猟犬のトラッカー。主人には従順だが、移民には牙をむく恐ろしい存在だ。実際に警備の訓練を受けた犬を起用したというのだから、人間を駆り立て追い詰める迫力は半端でない。

 宇宙に一人取り残された女性飛行士のサバイバルを描き、アカデミー賞7部門を受賞した「ゼロ・グラビティ」(2013年)で、父親のアルフォンソ・キュアロン監督とともに脚本を手掛けたホナス・キュアロンが監督、脚本、編集、製作を務めている。

 ホナス・キュアロン監督は移民たちの過酷な体験談を聞き、8年の構想を経て撮影に臨んだという。舞台となる砂漠は、物語の真実を語る重要な要素だけに、世界中のあらゆる砂漠を旅した中からロケ地を選んだという。

 まるで狩りを楽しむかのように平然と命を奪う自警団が、実際にも存在することの衝撃。不法入国者を殺すことは当然の権利なのか。私たちが知るべき現実を描いたタイムリーな作品は、今年のアカデミー賞外国語映画賞のメキシコ代表作品に選ばれている。

=1時間28分
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 海抜3千メートルを超えるチベット高原で、半農半牧を営む一家の物語「草原の河」。チベット人の監督ソンタルジャとキャストによる作品だ。

 6歳の少女ヤンチェン・ラモは父親のグル、母親のルクドルとの3人暮らし。村から離れた洞窟で修行中の祖父は「行者さま」と呼ばれ、尊敬されている。

 祖父の具合が悪いと聞き、グルは娘を連れて見舞いに行くが、家族を捨てて僧籍に戻った父親を許せないグルは、そばまで行きながら、ヤンチェン・ラモだけに行かせて、自分は会わないまま帰ってしまう。

 夏の放牧地に移動した一家のヒツジたちがオオカミに襲われ、母ヒツジを殺された子ヒツジの世話をヤンチェン・ラモがすることになった。自身もまだ母親のおっぱいをねだる甘えん坊のヤンチェン・ラモに大問題が発生。ルクドルに赤ちゃんができたのだ。母親の愛情を取られてしまうと、ヤンチェン・ラモの心に不安が広がる。

 原題は「リバー」(河)。広大な大地を流れる雪解け水が人間の行く手を阻む。天高く舞う鳥、刻々と変わる光、鳴る風の音。チベットの自然の何と厳しく、雄大なことか。ロケはソンタルジャ監督の故郷である青海省海南チベット族自治州で行われた。
実は、ヤンチェン・ラモありきで映画がスタートしたそうだ。彼女の天賦の才に驚いた監督が、子どもの目線でみた家族の物語を思い付いたという。

 彼女と父親役のグルは、2人ともソンタルジャ監督の遠い親戚で、演技指導はせず、普段の生活の中で捉えたという表情は、とても豊かで素朴だ。幼い表情の愛くるしさ。赤い着物にイヤリングやネックレスという民族衣装もかわいい。魅力あふれる少女に会いたくなる。撮影時はまだ6歳だったヤンチェン・ラモは、上海国際映画祭で、史上最年少で最優秀女優賞を受賞した。

 物質文明と離れた質素で大地に根付いたテント暮らしに、物にあふれた私たちの生活が重く感じてしまう。文化大革命が大きな傷を残したチベット。改革開放後の変化と、家族3代の世代間ギャップと絆を見つめた物語だ。
=1時間38分
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
 長野ロキシー((電)232・3016)で公開中
(2017年7月8日掲載)

(C)GARUDA FILM
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 円卓の騎士、キャメロット城など、さまざまな伝説で知られるイギリスの英雄アーサー王。中でも有名なのは、王の証しである聖剣エクスカリバーを、岩から引き抜く場面だろうか。「キング・アーサー」は路地裏で育った貧しい青年アーサーが、運命に導かれて偉大な存在へ歩み出す物語だ。

 イングランド王ユーサー(エリック・バナ)は、王の座を狙った弟のヴォーティガン(ジュード・ロウ)の謀反により殺害されてしまう。

 辛うじて逃れた息子のアーサーは記憶を失ったまま、スラムでたくましく成長する。ユーサーの死とともに行方不明になっていた聖剣が地上に現れ、アーサー(チャーリー・ハナム)が引き抜いたことで、暴君として君臨するヴォーティガンとの戦いが始まった。

 ガイ・リッチー監督は名探偵シャーロック・ホームズをシリーズで映画化。頭脳明晰(めいせき)という印象から一転、エキセントリックな面を併せ持つこれまでにない不思議な魅力のホームズを生み出した。アーサーも、売春宿育ちで強靭(きょうじん)な肉体と、生き抜く知恵を身に付けたチョイ悪なタフガイとして登場させているのが面白い。

 「シャーロック・ホームズ」でワトソン役のジュード・ロウは、本作では権力と闇の魔術に魅入られていく残忍な男を演じているが、演技力はさすが。極悪非道な悪役ぶりは、バトルだけでない深みを作品に与えている。

 リッチー監督ならではのスタイリッシュな映像は健在。三百六十度のハイスピードカメラとスローモーションを組み合わせた、斬新な映像スタイルとテンポの良さで、物語にぐいぐいと引き込む。操る者が全てを制するエクスカリバーの威力のすごさは、全てが止まったかのような瞬間の中で素早く動く。まさに体感型の映像だ。

 キャメロット城を攻撃する妖術使いとの戦いは巨大な怪獣が暴れまくり、エキサイティングなシーンの連続にオープニングから度肝を抜かれる。そんなCG映像に負けないのが、ロケ地のウェールズの大自然の粗削りな美しさ。イギリスのファンタジーを堪能できるアクションエンターテインメントだ。
=126分
(2017年6月24日号掲載)

=写真=(C)2017 WARNER BROS. ENT. INC., VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED AND RATPAC-DUNE ENT. LLCPhoto: Daniel Smith